【視点】事業費上限の予定価格、未設定は違法行為? それとも「軽微な瑕疵」? 海底清掃住民訴訟
屋久島町、JTBパブリッシングの見積額1700万円をそのまま予算額に
複数の参考見積もりも 予定価格もないまま 町議会で予算承認
予定価格の未設定で事業費が高額に

ふるさと納税の寄付金1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃事業をめぐる住民訴訟で、被告の町はこんな主張をしている。
「予定価格調書の作成は手続的な要請であり、この失念は軽微な瑕疵といえる」
事業費の上限となる「予定価格」について、その金額を決めることは単なる「手続的な要請」で、もし設定を忘れたとしても、それは「軽微な瑕疵」というのだ。
もし、この主張が成り立つならば、法的に義務づけられた予定価格を設定する必要はないということになる。だが本当に町は、こんな強弁をして大丈夫なのだろうか?
予定価格で経済的かつ適正な予算額を算出
屋久島町のような地方自治体が公共事業を発注する場合、委託業者を決める前段階で、必ず事業費の上限である予定価格を設定することが法的に定められている。なぜかというと、複数の業者から集めた見積書を参考にしたうえで、一般社会の相場と照らして、経済的かつ適正な金額で予算額を決める必要があるからだ。そして町は、その予定価格を上限額として一般競争入札を行い、一番安い入札額を提示した業者と契約することになる。

町、JTBパブリッシングと特命随意契約
今回の海底清掃事業で町は、競争入札を実施することなく、旅行大手JTBの出版部門を担うグループ会社「JTBパブリッシング」(本社・東京都江東区)と特命随意契約を結んだ。だが、それでも契約前に予定価格を設定する必要があり、それは法的に定められている。
ところが町は、同社と契約する際に、予定価格の設定を怠っていた。複数の業者から参考見積もりを取ることなく、同社が提示した約1700万円の見積額を、そのまま予算額にしていたのだ。
冊子の制作費、過去の実績と比べて約10倍に
その結果、過去の実績と比べて、この事業の業務委託費は高額になった。
まずは、海底清掃の実績を報告するという建前で制作された観光ガイド冊子「るるぶ特別編集 屋久島」は、1ページあたりの単価が22.8円だった。それに対し、町が2020年度に東京の大手出版社KADOKAWAに委託して制作した冊子「屋久島。神秘の島でしたい63のコト」は、1ページあたりの単価が2.8円で、10分の1近くも安い金額だったのだ。

また、観光ガイド冊子と同じ名目で制作した動画の制作費も高額だった。この事業では約314万円だったのに対し、2020年度に制作した観光PR用の動画は約212万円で、約102万円も安かったのである。
なお、2020年度に制作した冊子と動画については、いずれも町は競争入札を実施して業者を選定した。その際には、複数の業者から見積書を取り、事業費の上限である予定価格を決めたうえで入札を実施している。これに対し、海底清掃事業では予定価格が設定されず、JTBパブリッシングが出した見積額がそのまま予算額になったため、過去の実績と比べて高額になったとみられている。
JTBパブリッシングの「言い値」で事業費1700万円
予定価格を設定しなかった理由について、裁判で町は次のような説明している。
「予定価格の設定が困難で、また、同様の事業を執行できる事業者は他に見当たらなかった」
これは、海底清掃については「前例がない事業」ということで、参考見積もりを取る業者が他にいなかったという主張だ。だが、実際に海底に潜って清掃したのは計2時間のみで、事業費の大半は観光ガイド冊子と動画の制作費に使われた。また、冊子と動画を制作できる業者は全国に数多くあるが、町は複数の業者から参考見積もりを取ることはなかった。
つまり、屋久島町はJTBパブリッシングの「言い値」を鵜呑みにして、その見積額の妥当性を精査することがないまま、1700万円もの事業費を支払ったということである。

予定価格の未設定、予算案の議決で「瑕疵は治癒」!?
さらに、町は予定価格の未設定について、こんな言い訳もしている。
この事業の予算が町議会で承認されていることを根拠にして、「議決がなされている以上、その瑕疵は治癒した」というのだ。
だが、こんな乱暴な主張が成り立つはずはない。法的に義務づけられた予定価格を設定しなくても、町議会が予算を承認すれば、その瑕疵はすべて許されるということになる。そうなると、そもそも予定価格を設定する意義はないことになり、公共事業の上限額は定める必要がないと言っているのと同じである。
もし、議決前に予定価格が設定されていないことがわかっていれば、そんなでたらめな予算案が承認されるはずはない。なぜなら、その予算案は違法なかたちで提案されたものであり、それを住民代表である町議が認めるわけにはいかないからである。

6月23日結審 10月ごろ判決の見込み
この住民訴訟の第9回口頭弁論が4月22日に鹿児島地裁であり、裁判長が「予定価格は未設定だったということで、本当にいいのか?」と確認したところ、町は「そのとおりだ」と回答した。これはすなわち、法的に義務づけられた予定価格の設定を怠った事実について、裁判長が改めて確認したということで、これによって町の違法行為が確定したことになる。
次回の口頭弁論は6月23日。それをもって住民訴訟は結審し、判決は10月ごろになる見込みだ。
予定価格の未設定は違法行為なのか? それとも「軽微な瑕疵」なのか?
鹿児島地裁の判断が注目される。
■屋久島町海底清掃事業へのご意見
屋久島町がふるさと納税の寄付金1700万円を活用して実施した海底清掃事業では、事業費の大半が海底清掃ではなく、観光広報事業に使われました。この寄付金は「屋久島の自然を守ってほしい」と使途が環境保全事業に指定されたものであり、事業費の使い方が不適切だとして、いま住民訴訟が提起されています。この事業について、以下URLから読者の皆さまからご意見をお待ちしています。https://forms.gle/Jqm3PZbwHEc2Epji6
