【取材後記】屋久島町長の一存で続ける訴訟に道理なし
裁判所の和解案、なぜただ一人 荒木町長だけが頑なに拒むのか?
町営牧場 過重労働死訴訟

屋久島町営牧場の過重労働死訴訟を取材して2年余り。亡くなった職員の遺族に対し、町が解決金4000万円を支払う和解案が提示されたことで、やっと労働管理を怠った町の責任が認められると安堵しかけていた。
だが、荒木耕治町長のひと声で、その安堵は一気に吹き飛んだ。
「どの部分の何がどう悪いのかが具体的にわからないので、判決によって責任の所在を明確にしたい」
そう言って、裁判所が示した和解案を蹴ってしまったのだ。
判決で責任の所在を明確にしたい町長
取材窓口の町総務課に話を聞くと、屋久島町としては、労働管理を怠った一定の責任は認める方針だという。
それならば、まずは和解の席に着いて、細かい和解条件について話し合ってはどうかと思うのだが、荒木町長は判決を強く望んでいるという。つまりは、職員の過重労働死について、誰にどのような過失があったのかを明確にしたいということだ。
町長、死亡事故の調査検証せず
荒木町長にしてみれば、自分が直接的に町営牧場を管理しているわけではないので、当時の担当課長らに過失があったと言いたいのだろう。だが、この訴訟の被告は屋久島町であり、問われているのは地方自治体としての管理責任だ。もし、職員一人ひとりの過失を明らかにしたいのであれば、それは第三者委員会を設置するなどして、町が独自に調査をすべきところである。
法律の素人であるとはいえ、この訴訟の趣旨をまったく理解しておらず、地方自治体の首長としては、極めて稚拙な判断だと言わざるを得ない。
町長の「過失」は過重労働死問題の放置
この過重労働死問題をめぐり、荒木町長が犯した最大の「過失」は、2019年8月に職員が亡くなって以降、町として調査と検証をしなかったことだ。さらには、この死亡事故について、地方公務員災害補償基金が過重労働による公務災害と認定したあとも、荒木町長は担当課長に調査を指示することなく、そのまま放置を続けた。
町、職員の持病が死因と主張
それがゆえに遺族は不信を募らせ、町の管理責任を問うために提訴したのだが、町の反論は極めて一方的だった。「過重労働はなかった」の一点張りで、公務災害の認定事実を完全に否定したうえで、職員の持病が主な死因だったとまで言い出した。
町の反論が書かれた答弁書と準備書面に何度も目を通したが、そこから読み取れるのは、町のこんな言い分だった。
町が勤務を命じていないのに、職員が勝手に働いて、自らの持病で亡くなった――。
だが、同基金が認定した事実は、町の主張とは大きくかけ離れていた。雇用契約にはない時間外労働が恒常的に続き、死亡する1カ月前の時間外労働は約90時間。亡くなる3日前までの連続勤務は50日にも及び、半年間で取れた休暇は5日だけだった。
それにもかかわらず、なぜ町は法廷で「過重労働はなかった」と言い切ったのか。それも、職員が亡くなってから調査や検証をすることなく、この過重労働死問題をずっと放置していたのに。
町代理人の説得にも応じず
裁判所の和解案に対し遺族は、いくつかの異論はあるものの、概ね応じる方針だ。また、町の代理人を務める弁護士も、和解案を受け入れるように町を説得しているようだ。
そうなると、この和解案に反対しているのは、荒木町長ただ一人ということになる。
ここまで「外堀」が埋まっているのに、どうして、荒木町長だけが頑なに判決を求めるのか。原告となった職員の両親は高齢で、一日も早く訴訟の終結を願っているのに、どんな道理があって、荒木町長は訴訟を長引かせるのか。
今後、元課長らが証人尋問を受けることになるが、もし荒木町長が証人で出廷したら、こんな証言をするのだろう。
「町営牧場の運営は部下にすべて任せていたので、私は何も知りませんでした」
