元上司、過労死が認定されても「肉体的に楽な作業だった」【なぜ牧場職員は過労死したのか?】(3)

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公務災害、長峰牧場の「業務負荷は相当程度に強度であった」と判断

担当課長、「しんどい」の訴えに「体調が悪いのか、それとも日常作業のことなのか、わからなかった」

屋久島町営牧場 過労死訴訟・証人尋問

【過労死が認定されても「肉体的に楽な作業だった」】:屋久島町役場=屋久島ポスト撮影

2019年8月に町営長峰牧場の職員・田代健さん(当時49)が過労死した公務災害をめぐる損害賠償請求訴訟で、証人尋問が7月7日に鹿児島地裁で行われた。証言したのは次の3人。

産業振興課 鶴田洋治 元課長(牧場所管課責任者)

産業振興課 松本彰文 元統括係長(牧場管理責任者)

牧場元職員 片山吉清さん(田代健さんの元同僚)

屋久島ポストはそれぞれの証言を踏まえて、訴訟の主な争点を複数回にわたってまとめる。

田代健さんが亡くなる3日前までの半年間で、<全く業務を行っていない日が5日しかなく、疲労が蓄積した状態が継続していたと考えられる>

地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部(支部長・塩田康一知事)は2023年2月、田代健さんの死亡事故を過労死による公務災害と認定した際に、田代さんの連続勤務が続いていたことを指摘したうえで、次のような判断を示した。

<本件災害発生時は夏の暑い時期であり、気温の高い状態で連日屋外での作業を行っていたことも考慮すると、本人の業務負荷は相当程度に強度であったと考えられる>

地方公務員災害補償基金が遺族に送付した公務災害認定の理由書には、「本人の業務負荷は相当程度に強度であったと考えられる」などと記載されている

元統括係長、職員はエアコンがきいた車で「ゆっくり休んでいた」

ところが、町営牧場を所管する産業振興課の元上司たちは証人尋問で、田代さんが従事していた牧場業務は「肉体的に楽な作業」だったと断言した。

町内には二つの町営牧場があり、一つは産業振興課の松本彰文・元統括係長が業務を担当していた旭牧場で、もう一つは田代さんら職員2人が働いていた長峰牧場だ。

まず、旭牧場の作業について松本元統括係長は、牛の分娩や生後間もない子牛の管理という生命に直結するような専門性の高い仕事が多いと指摘。その一方、田代さんらがいた長峰牧場では、給餌や子牛の授乳といった定常作業が主な業務だったとして、「旭牧場に比べて、長峰牧場の作業は肉体的にずっと楽だった」と述べた。

長峰牧場の労働環境については、標高140メートルの山間地にあるため風通しがよく、夏場であっても夕方は涼しくなるとしたうえで、「牛舎内にはエアコンはなかったが、大型の扇風機があった」と説明。また休憩時間になると、田代さんはエアコンをかけた車の中で「リクライニング(シートを倒)して、ゆっくりと休んでいた」と証言した。

損害賠償請求訴訟提訴の記者会見で示された田代健さんの遺影=2023年10月19日、鹿児島県庁記者クラブ、屋久島ポスト撮影

元課長、職員側から「人員増の要請はなかった」

また、同課の鶴田洋治・元課長は「月に2回ほど」長峰牧場に行って現場の様子を確認していたが、「田代さんは自分の車の中で休んでいた」とする一方、職員側から「人員を増やしてほしいという要請はなかった」と述べた。

元同僚、大汗で「作業服は午前中だけで3枚は着替えていた」

同基金の認定事実を否定する上司の証言に対し、田代さんの元同僚の片山吉清さんは、長峰牧場の「蒸し暑い」労働環境について、田代さんと自分の経験を語った。

日中の屋外作業は1日3~4時間はあり、牛舎内の作業でもエアコンがないため、夏場は動悸や息切れがして、「熱中症だと思うことがあった」という。田代さんが亡くなった時期にあたる7~8月は特に暑く、大汗をかいて「作業服は午前中だけで3枚は着替えていた」と述べた。

屋久島東部にある屋久島町営長峰牧場=Google Earth より

応援の必要性、使用側でなく「労働者側が判断すべき」

長峰牧場の作業は肉体的に「楽だった」のか、それとも「きつかった」のか?

労使双方の主張は真っ向から対立したが、遺族代理人の立野嘉英弁護士が鶴田元課長に反対尋問すると、その認識が曖昧なことがわかった。

田代さんが亡くなる4カ月前に、片山さんが「作業がしんどい」と町側に訴えたことについて問われると、鶴田元課長は「体調が悪くてしんどいのか、それとも(日常的な)作業がしんどいのか、それはわからなかった」と証言。現場への応援派遣の検討は、職員側から要請がなかったので「(人員派遣の)指示のしようがなかった」と述べた。

これに対し立野弁護士が、応援が必要か否かの判断は使用者側ではなく「労働者側がするべきだと考えているのか?」と問われると、鶴田元課長は「そう思っている」と答えた。

屋久島町営牧場・過重労働死訴訟の記者会見には、報道各社の記者やカメラマンが大勢集まった=2023年10月19日、鹿児島県庁記者クラブ

田代さんが働いていた長峰牧場の作業は「肉体的に楽」で、標高も高いので「夕方は涼しい」労働環境だったと、元上司たちは証言した。

だが、それにもかかわらず、なぜ公務災害を認定した同基金は、<本人の業務負荷は相当程度に強度であった>と判断したのか?

これまでの記事で紹介した証言から、元上司たちが田代さんら職員2人の勤務時間を確認していなかったことは明らかだ。また、作業日報を改ざんして、1日の勤務時間を実際より短く記録するように指示していた疑いがあることもわかっている。

そうなると、「肉体的に楽だった」とする上司側の証言をそのまま信じることは、極めて難しいと言わざるを得ない。

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