増員要請に応援なく「ワンオペ」に追い込まれて死亡【なぜ牧場職員は過労死したのか?】(4)
元同僚、死亡事故の4カ月前に職員の増員を要請
担当課長「人員増の要請はなかった」と完全否定
職員2人が体調不良になっても応援なし
屋久島町営牧場 過労死訴訟・証人尋問

2019年8月に町営長峰牧場の職員・田代健さん(当時49)が過労死した公務災害をめぐる損害賠償請求訴訟で、証人尋問が7月7日に鹿児島地裁で行われた。証言したのは次の3人。
産業振興課 鶴田洋治 元課長(牧場所管課責任者)
産業振興課 松本彰文 元統括係長(牧場管理責任者)
牧場元職員 片山吉清さん(田代健さんの元同僚)
屋久島ポストはそれぞれの証言を踏まえて、訴訟の主な争点を複数回にわたってまとめる。
<そもそも土日祝日にかかわらず対応が求められる飼育業務を2体制で行うことに困難があった可能性も考えられる>
地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部(支部長・塩田康一知事)は2023年2月、田代健さんの死亡事故を過労死による公務災害と認定した際に、長峰牧場が2人体制で業務を行っていたことを疑問視する指摘をした。

元同僚「予算を理由に増員要請を断られた」
この人員問題について元同僚の片山吉清さんは、田代健さんが亡くなる4カ月前の2019年4月、牧場を所管する産業振興課の鶴田洋治・元課長に増員と昇給の要請をしていたと証言した。
その要請に対し、元課長からは予算的な問題を理由に「議会を通さないと難しい」と言われ、その時点では断られたという。そして「作業がしんどいのであれば休むように」と指示されただけで、町内にもう一つある町営旭牧場との連携などについては、具体的な言及はなかった。
元同僚の急性肝炎で1人体制に
また、死亡事故が起きる6日前には、片山さんが急性肝炎を発症して休んだため、田代さんは1人体制に追い込まれた。だが、旭牧場や同課から応援要員が派遣されることはなく、さらに田代さんも体調不良で急性胃腸炎と診断されたが、それでも1人で牧場業務を続けた末に亡くなったという。
元課長「作業がきついという話はなかった」
この証言に対し、鶴田元課長は「人員を増やしてほしいという要請はなかった」と完全否定した。その一方、給料を上げてほしいという求めはあったが、すぐには対応できないため「財務と話す」と答えたという。また、片山さんからは「作業がきつくて手が回らないという話はなかった」とも述べた。

元統括係長「1人体制だったことは認識していた」
田代さんがいわゆる「ワンオペ」と呼ばれる1人勤務に追い込まれたことについて、町営牧場の管理責任者だった同課の松本彰文・元統括係長はどう証言したのか。
反対尋問で遺族代理人の立野嘉英弁護士から「片山さんの急性肝炎を知っていたか?」と問われると、松本元統括係長は「体調が悪いのは知っていた」と答えた。また、死亡事故が起きる2019年8月上旬の時点で、「田代さんが1人体制だったことは認識していた」とする一方、「田代さんも体調を崩していたことは知らなかった」と言った。
町長や上司から労務管理の指示は「なかった」
長峰牧場に応援要員が派遣されず、1人勤務体制が続いた状況で、結果的に田代さんは同年8月8日、山中にある牧場の水源で管理作業をしていた最中に亡くなった。
それを踏まえ、立野弁護士から「(長峰牧場の)労務管理をすることを町長や上司から指示されたことはあるか?」と問われると、松本元統括係長は「なかった」を答えた。また、「鶴田課長から(長峰牧場の職員2人が)休日を取れるように指示されたことはあるか?」と確認されると、「なかったです」と述べた。
続いて、「長峰牧場を直接的に監督する立場ではなかったのか?」「労働時間の管理をしなくてはならないと思っていなかったのか?」と確認された松本元統括係長は、いずれについても「はい」と回答。田代さんら職員2人の労務管理について、自分自身が責任を負う立場にはなかったという認識を示した。

別の職員「週40時間以内で十分に業務を遂行できない」
同基金は田代さんの公務災害を認定する際、2022年に町営牧場で働いていた職員から聴き取り調査をしている。その当時、田代さんの死亡事故を受けて、同牧場の人員は1人増員されて、計3人で牧場業務を行っていた。
その職員は同基金に対し、長峰牧場の労働環境について次のよう説明している。
<週40時間以内で十分に業務を遂行できませんでした。
牛は生きるために沢山の飲用水が必要だそうですが、牛舎の一部は上下水道設備が無く、山の水(よく止まります)はとても大切でした。
本人(田代さん)の両親の話では、本人はとても優しい人で、動物をかわいがる方だったということでしたから、多少無理をしてでも水源地の点検に行かれたのではないかと思います。
水源地までの道程は決して簡単なものではなく、途中のパイプが外れていたり詰まったりした時は何往復もしなければなりません。
真夏の暑い中で事故が起こったということですので、体力の消耗も激しかったのではないかと思います>
この職員の証言を踏まえて、立野弁護士から「(当時の職員が)週40時間で(業務が)終わらないと言っているが、知っているか?」と問われると、松本元統括係長は「知らない」と答えた。

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長峰牧場の人員問題について、元同僚の片山さんは「増員の要請をした」と主張する一方、鶴田元課長はその事実を完全否定しており、どちらの証言が真実なのか判断はつかない。
しかし、田代さんがワンオペに追い込まれた末に亡くなったのは事実だ。また、過労死を認定した同基金は「飼育業務を2体制で行うことに困難があった可能性」があると指摘していることからも、人員不足が大きな要因となって、田代さんが亡くなったということが推察できる。
そして何より問題なのは、町営牧場の管理責任者である松本元統括係長が、田代さんら職員2人の労務管理について、自分自身が責任を負う立場にはなかったという認識を示したことだ。そうなると、その責任は鶴田元課長にあることになるが、元課長は「実際の勤務時間は確認していなかった」と証言している。
つまり、長峰牧場の労務管理について、屋久島町がその責務を果たさなかったことが大きな要因となり、田代さんは過重労働に追い込まれて亡くなったということである。
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