取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑨『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

これで、屋久島町が国に虚偽の報告をしていたことが、ほぼ確実になった。島民記者が取材した業者の社長は、工事が終わったのは「8月のお盆過ぎだった」と証言しているのに、町が作成した検査調書には<3月19日>に工事が完成したと記載されているからだ。

屋久島町が開示した水道工事の検査調書。実際には工事が未完成なのに、すべての工事が終了したと虚偽の内容が記載されている ※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストが、それぞれ加工しています

さらに、業者側から工事が終わったことを報告する<工事目的物引渡書>を見ると、町の嘘が上塗りされていることがわかった。3769万1000円の契約金額が書かれた下に<完成検査年月日>の欄があり、そこにも<令和3年3月26日>とあるのだ。

屋久島町が開示した水道工事の工事目的物引渡書。実際には工事の終わっていないのに、虚偽の完成検査年月日が書かれている ※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストが、それぞれ加工しています

これらの工事記録を手にした私は、公文書を基にした調査報道の力を実感した。「8月のお盆過ぎ」に工事が終わったとする業者の証言があっても、それだけでは記事にできない。だが、そこに工事完成日が<3月19日>とする記録文書が加わると、町の虚偽報告の事実が浮かび上がってくる。あとは、担当課の生活環境課を直に取材して、3月19日の段階では工事が未完成だったことを確認できれば、国への虚偽報告の事実を伝える第一報を打つことができる。

私は島民記者たちと相談して、町への直接取材が終わった段階で初報の記事を出し、それをもって新生「屋久島ポスト」の創刊日とすることにした。そう決めた鹿島さんは、さっそく担当課長に電話を入れて、11月5日の午後3時半に取材の約束をした。

ところが、私たちの取材日が決まると、それまでじっと沈黙を続けていた町が慌ただしく動き始めた。

屋久島町役場

まずは、工事の記録文書が開示された翌日の10月28日。2020年度の予算執行を審査する町議会の決算審査特別委員会で、生活環境課長が何の前触れもなしに、唐突にこう切り出したのだ。

「口永良部島の水道工事は、工期の年度末に工事が終わらず、最終的に終了したのは八月のお盆過ぎで、最終検査は9月初めでした」

突然の報告を受けて、委員会に出席していた町議たちは少しざわついたが、課長はそのまま言葉を続けた。

「担当課としては、工期が遅れるとわかった時点で、予算の繰り越しをするべきでした」

これは要するに、工事が未完成の段階ですべての工事が終わったとする虚偽の報告書を国に提出し、不正に補助金を受け取ったことを、町が自ら認めたということだ。さらには工事を終えていない業者に対し、町が工事代金を前払いしていたことにもなる。

一連の出張旅費不正精算事件では、副町長らが精算に使った虚偽の領収書を不問にしてきた町長派の町議たちだが、さすがにこの虚偽報告を見過ごすことはできなかった。

委員の町議からは「工事の検査が終わっているのに、工事が終了していないのは整合性が取れない」といった厳しい声が上がった。続く採決では、委員長を除く7人の委員のうち6人が決算の認定に反対。その理由は、工事が未完成なのに「完成した」ことにして、虚偽の工事完成日を記載したことが「不適切」ということだった。

屋久島町役場

私たちの取材が予定された11月5日になると、またしても町は慌ただしく動いた。午前8時半の業務開始とともに、担当課の職員が決算審査特別委員会の委員ではない町議たちに電話を入れて、虚偽報告の事実について説明。「予算の繰り越しをしなかったのは町側のミスだった」などと釈明したのだ。

この問題を追及してきた一部の町議によると、町の説明は「一方的」だった。なぜ、虚偽の工事完成日を報告したのか。これまで町議会で何も説明していないのに、どうして突然の電話で事情を説明するのか。疑問に感じたことを職員にぶつけても、「詳細は議会で説明する」と言うばかりで、それ以上は何も答えなかったという。

それまでの町の対応を振り返ると、私たちが工事の記録文書を受け取ったあとの動きは明らかに不自然だった。

8月にあった町議会の産業厚生常任委員会で工事の未完成を指摘されても、担当課長は「確認します」と言ったきりで、そのまま放置した。本来であれば、委員会での質問に対し、町長ら幹部は本会議で答弁する義務があるが、その責任が果たされることはなかった。

しかし、ひとたび私たちが工事の記録文書を入手すると、その翌日から町の対応は急転した。町議会が頼みもしないのに、担当課長が決算審査特別委員会で虚偽報告の事実を公表。さらに屋久島ポストの取材を受ける直前になって、委員会で報告を聞いていなかった町議たちにも電話で説明した。

この経緯を踏まえると、町が虚偽報告の事実を隠蔽していたとしか思えなかった。工事の記録文書の開示が決め手となって、それ以上は嘘を隠し切れなくなったということである。

ところが、私たちの直接取材に応じた担当課長の説明は、すでに定年退職した部下の職員に全責任を押しつける内容だった。

神妙な表情をした課長に向き合った鹿島さんは、虚偽の検査調書を示しながら「ここには3月19日に工事が完成したと書かれていますが、業者は『8月のお盆過ぎまで工事をしていた』と言っています。どちらが正しいのですか?」と質問した。それに対し課長は、国から補助金をもらうために、事実とは違う工事完成日を報告していたことを認めたのだが、それに続くひと言が実に無責任だった。

「すべての工事管理を担当職員に任せきりにしていたので、まさか工事が未完成だとは思いもしませんでした」

工事を担当したのは、その年の3月末に定年退職した元参事で、長年にわたって水道工事の管理を一手に引き受けていた。だが、いくら経験豊かな職員であっても、国から1億円超の補助金を受けるのに、課長が何も知らないというのは、とても信じられなかった。

そこで、鹿島さんは「本当に知らなかったのか?」と何度も聴き直した。だが、課長は「何も知らなかった」と否定するばかりで、すべての責任は元参事にあるということにされた。

しかし、こんな欠席裁判のようなかたちで、取材を終わらすわけにはいかなかった。こうなったら、元参事に直接会って、課長の説明に対する言い分を聴かなくてはならない。

そう思った私たちは、町を取材した翌日に元参事を訪ねることにした。

4章 報道砂漠⑩につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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