取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑮『離島記者』

y@kushima-post-administrator@
『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

不正精算の責任を職員に転嫁したうえで、領収書が発行された経緯は「記憶がない」と言ったまま、説明責任を全く果たさない。これがベテラン町議の態度かと呆れてしまったが、それまで2年半にわたって出張旅費不正事件を追及してきた私たちとしては、ここで諦めるわけにはいかなかった。

そんな状況のなかで、2022年5月24日には議会運営委員会が開かれ、委員長の日高町議も出席することになっていた。鹿島さんと私は、委員会室前の廊下で会議が終わるのを待ち、日高町議が出てきたところでビデオカメラを向けて、架空領収書について問いただした。

すると、日高町議は開き直ったように、こう言ってきた。

「まあ、自由に書いてくださいよ。日高好作がやりましたと書きたいなら、書いてください」

不正の疑いがある領収書を取材で示され、説明を拒否する日高好作町議=2022年5月24日、屋久島町役場の議会棟

当然だが、そんなわけにはいかないので、鹿島さんは「いいんですか、それで本当に?」と尋ね返した。ところが、その開き直った態度はさらに大きくなり、ついには演説をぶつように語り始めた。

もう、自由に書いてください。話すか話さないかは私の権利ですし、あなた方も聴くかどうかというのは、自分たちの権利と思ってやっているんでしょう。あなた方が全部資料を持っているというのは十分承知のうえです」

この話しぶりだと、自ら不正精算を認めたようにもとれるが、そう記事に書くことはできなかった。「自由に書け」と言って、説明は一切しない。住民に対して説明責任がある町議としては、実に卑怯な態度だと感じたが、これ以上はどうすることもできなかった。

不正の疑いがある領収書を取材で示され、「自由に書いてください」と言う日高好作町議(左)=2022年5月24日、屋久島町役場

日高町議や元会計課長に加え、監査で判明した不正精算のなかには、一般職員が関わった出張も複数あった。航空券代とホテル代がセットになったホテルパックで出張して、宿泊費を二重取りしたり、福岡市まで高速船と新幹線で移動したにもかかわらず、航空機に乗ったと偽って差額を着服したりと、これまで発覚した町幹部らの不正精算と同じようなケースだった。

これで虚偽の領収書を使って不正精算したのは計11人となり、出張件数の合計は15件となった。また、そのうち14件では、一連の不正精算に関わってきた同じ旅行会社の領収書が使われていた。

不正精算に使われた領収書

ここまで判明したとなると、次は虚偽の領収書が発行された経緯を調べなくてはならない。

ところが監査委員の2人は、これ以上の監査をしようとはしなかった。その理由を尋ねると、監査の目的は、領収書と販売記録に差額があるかどうかを確認することで、領収書が発行された経緯は「監査の対象ではない」というのだ。また、この監査は荒木町長の要請で実施したため、町長から指示がない限りは、追加の監査はしないということだった。

差額を返せば、あとは不問になる。それでいいはずはなかったが、これが屋久島町の監査委員2人が下した判断だった。だが、虚偽の領収書が発行された経緯が不明なままでは、再発防止策を講じることは不可能である。

屋久島町監査委員の朝倉富美雄氏(右)と相良健一郎町議

それでは、監査を指示した荒木町長はどう考えているのか。

鹿島さんと私は町長室を訪ね、荒木町長の見解を聴くことにした。町長応接室に通された私たちは、大きく印刷した15枚の虚偽領収書をテーブルに並べ、町長に「領収書が発行された経緯を知りたくないですか?」と尋ねてみた。

すると、意外にも町長は「私も知りたいと思う」と言った。

それなら、追加の監査を指示すればよさそうなものである。だが、荒木町長は「監査委員は独立した立場で監査をしているのだから、(監査の内容について)私がどうこう言うのはおかしい」としたうえで、「新たな疑義があれば、監査委員が独自の判断で監査するべきだ」との見解を示した。

屋久島ポストの鹿島幹男共同代表(左)から不正の疑いがある領収書を示される荒木耕治町長=2022年6月2日、屋久島町役場の町長応接室

監査委員は「町長の指示があれば追加で監査する」とする一方で、荒木町長は「監査委員が独自の判断で監査するべきだ」と言う。これでは双方が監査の責任を押しつけ合っているように思えるが、要するに監査委員も町長も、虚偽の領収書が発行された経緯を調べるつもりはないということである。

町長とは一線を画し、公正公平なはずの監査委員には、これ以上の期待はできなかった。そうなると、全く頼りにはならないが、最後の望みは町議会だけとなる。

6月22日にあった定例会には、一連の出張旅費不正精算で使われた虚偽領収書の調査をする百条委員会の設置案が出された。

提案者の真辺真紀町議は、町役場と町議会の幹部らが使った15枚の虚偽領収書を示し、町の監査では虚偽の領収書が発行された経緯が不明のままだと指摘。「特に元副町長や元会計課長、歴代の議長3人が使った虚偽領収書については、説明責任を果たしておらず、うやむやのまま放置することは許されない」と賛同を求めた。

虚偽領収書を示して不正調査の百条委員会の設置を提案する真辺真紀町議=2022年6月22日、屋久島町議会の議会中継モニター画面を撮影

それに対する反対討論で、町長を支持する中馬慎一郎町議は「(百条委員会で)調査するとなれば、議会が認めた今の監査委員を罷免する必要がある」と主張。監査結果は十分に納得できるもので、「大事なのは再発防止に向けて、改善された今の事務取扱をしっかり機能させることだ」と述べ、百条委員会の調査は必要ないとした。

虚偽領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に反対意見を述べる中馬慎一郎町議=2022年6月22日、屋久島町議会の議会中継モニター画面を撮影

議会中継用のモニター画面を撮影していた私は、この発言の趣旨が理解できなかった。なぜ百条委員会で調査をすると、監査委員を罷免する必要があるのか。町議会と監査委員はそれぞれ独立した機関であり、意見や判断が違っていても、全く問題ないはずだ。

一方、百条委員会に賛成した渡辺千護町議は、「屋久島町は偽の領収書を使って精算しても、監査も調査もしない地方自治体として広く知れわたり、町の社会的な信用を深く傷つける」と主張。小脇淳智郎町議は「町民につまびらかに明らかにしていくことが町議の責務だ」と述べて、百条委員会による調査の必要性を訴えた。

虚偽領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に賛成意見を述べる渡辺千護町議==2022年6月22日、屋久島町議会の議会中継モニター画面を撮影

討論が終わると採決に入り、反対9人、賛成6人で百条委設置案は否決された。一連の出張旅費不正問題で百条委員会による調査が退けられたのは4回目となったが、この採決では異例の事態が生じていた。虚偽の領収書を使っていた日高町議と岩川俊広町議の2人が、こともあろうことか、この採決に自ら参加していたのだ。

虚偽領収書の不正調査をする百条委員会設置案の採決結果を表示するモニター画面=2022年6月22日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより

自身の不正を調査する百条委員会に対し、自分で反対する。まさかの展開に唖然としたが、提案理由のなかに個人名が入っていなかったため、石田尾茂樹議長が2人を参加させたということだった。

そうは言っても、日高町議と岩川町議にしてみれば、あまりに露骨な「お手盛り採決」なので、気恥ずかしかったのではないか。両町議には自主的に棄権するという選択肢があったが、2人とも電子採決で反対ボタンをちゃっかり押しており、この町の住民として、なんとも情けない気持ちになった。

虚偽の領収書に対する百条委設置案は、さらに9月20日に開かれた定例会でも提案されたが、反対8人、賛成5人で、またしても退けられた。この5回目の否決によって、虚偽の領収書が不正に発行された経緯は、不明のまま放置されることになった。

虚偽領収書の不正調査をする百条委員会設置案の採決結果を表示するモニター画面=2022年9月20日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより

町役場、監査委員、そして町議会。これら住民の暮らしを守り支える立場の機関が、公費をめぐる不正に目をつぶる由々しき事態に、私たちは暗澹たる思いになった。

だが、一つだけ救いだったのは、5回目の採決で、虚偽の領収書で精算していた日高、岩川の両町議が退席させられたことだった。

5章 負の連鎖①につづく)

【動画】屋久島ポストの取材を拒否する日高好作町議=2022年5月24日、屋久島町議会の議会棟

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

【ご感想・メッセージ】
取材記『離島記者』に関するご感想やメッセージなどは、以下のフォームよりお寄せください。→ https://forms.gle/393iKVFjZ8X5Smzg8

『離島記者』配信記事一覧
https://yakushima-post.com/ritokisha-front
 

関連記事
これらの記事も読まれています
記事URLをコピーしました