4章 報道砂漠⑬『離島記者』

このときばかりは、町長派の町議たちから突き放される格好となった荒木町長だったが、それでも自己弁護と責任回避の姿勢は変わらなかった。
国への虚偽報告について、荒木町長は「口永良部島での実施で協力支援が受けにくい状況だったことに加え、新型コロナウイルス感染症の発生など予想できない事案が重なった」と釈明。一方、虚偽報告の事実を国に伝えず放置したことや、工事が未完成の段階で、工事代金を前払いした責任については、全く言及しなかった。

荒木町長にとっては、精いっぱいの強弁だったに違いない。しかし、町長の「親衛隊」ともいえる多数派の町議たちが突きつけた決算の不認定は、極めて重い判断だった。これで決算自体が無効になることはないが、地方自治法に従って、荒木町長は再発防止策などを講じ、その内容を公表しなくてはならなかった。
ところで、屋久島ポストは石田尾議長に取材を拒否されたため、この定例会の様子を議場で取材できなかった。そこで、議場から排除された私は、役場内の公共スペースに設置された議会中継用のモニター画面をビデオで撮影して、急場をしのがざるを得なかった。

この日も、石田尾議長は「議会取材は日本新聞協会などの加盟社に限る」と主張したが、傍聴席にいるのは南日本新聞の記者だけだった。つまり、議会取材をしないテレビなどのマスコミには取材を許可する一方で、熱心に取材を続ける屋久島ポストは議会から排除するということである。
荒木町長にとって、不都合な事実は詳細に報道させたくない。議場からつまみ出された私としては、石田尾議長にそんな思惑があるとしか思えなかった。

その後も議会取材の妨害は続いたが、それでも私たちは追加で情報公開請求をするなどして、翌2022年の3月までに約50本の続報を配信した。
その報道のなかでは、最も工事が遅れた第5工区だけでなく、九つあった全工区のうち、八つの工区で工事の完成日が虚偽だったことも判明した。さらに、町が工事の進捗状況を月ごとに記録した「工事月報」の確認を怠っていたこともわかるなど、杜撰な工事管理の実態が次々と明らかになった。

そして、初報から4カ月が経った3月16日、私たちにとっては、とても嬉しい吉報が届いた。厚労省が同日付で補助金適正化法の違反を認定し、屋久島町に対して補助金の返還命令を出したのだ。
詳細な金額は、2021年3月末日の時点で工事が未完成だった事業分の約1514万円。それに加え、約11カ月間にわたって不正に補助金を受給し続けたことに対する加算金を含めると、その総額は1700万円近くになる見込みとなった。

まさか、屋久島ポストの創刊日に配信した記事がきっかけになり、国が補助金の返還命令を出す結果になるとは思わなかった。国民の貴重な公費に対する不正であり、町から違法な行政手続きをなくすためにも、ぜひとも報道すべき問題ではあったが、正直なところ、ここまでの成果が得られるとは予想もしていなかった。
また、さらに予想外だったのは、補助金の返還命令が出るのに合わせて、久しぶりに厚労省に電話取材をした際に、担当者と交わした会話だった。詳細な返還額を確認し終えて、私が取材のお礼を言おうとすると、その担当者がこう言ってきた。
「屋久島ポストさんの記事のお陰で、町役場や町議会の細かい情報が確認できて、とても助かりました」
この問題が発覚して以降、私たちが続報を配信する度に、最新の記事を細かくチェックしていたというのだ。無料のブログで始めた市民メディアの報道であっても、内容がしっかりしていれば、東京・霞が関の各省庁でも読まれるということである。

この担当者の話を聞き、新たな時代の「草の根メディア」として、屋久島ポストには大きな可能性があると感じた。報道による行政監視の目が届かない地域社会でも、小さなメディアがたった一つでもあれば、その社会を改善する重要な力になり得るのである。
町の虚偽報告で始まった補助金不正請求事件は、ここで一件落着かと思われたが、そう簡単には終わらなかった。町が3月24日に補助金を返還したのち、国に納付した約1668万円を各業者に賠償請求すると言い出したのだ。
そこで、私たちがこの工事を担当した業者の一人に接触したところ、こんな証言を得ることができた。
「事前に工事が終わっていないことを伝えていたのに、それでも無理に完成検査をやったのだから、すべては町の責任だ」
もし、この証言が事実であれば、町の担当職員が工事の未完成を知りながら、それでも完成検査を強行して、すべての工事が完成したとする虚偽の報告書を国に提出したことになる。
確かに、私たちが情報公開請求で入手した記録文書のなかには、担当職員が工事の未完成を認識したまま、完成検査を実施したことがうかがえるメールがあった。2021年3月26日の完成検査を前に、担当職員が3月15日に送信した<口永良部工事について>と題するメールには、次のような指示が書かれていた。
<もし、工事完成していなくても、完成検査が出来る状況にして下さい。出来るところで写真を撮ります>
町からのメールを受けて、この業者は担当課に電話をして、工事が未完成であることを伝えた。だが、それでも職員は工事が終わっている部分で写真を撮り、予定どおりに完成検査を実施したという。

ところが町は、修正した実績報告書を2022年3月1日に国へ提出した際に、すべての工事が完成したとする虚偽の報告をした経緯について、次のように釈明していた。
<請負業者から(工事)遅延の報告が無く、また、離島のため現地確認が随時できなかったことから、完成検査時において初めて工事が完成していないことが判明した>
さらに<請負業者と協議し、年度内に工事が完成することを確認し、完成検査を行った>として、すべての責任は業者にあるという趣旨の説明もしていた。

町と業者、どちらの言い分が正しいのかは不明だった。ただ、町から工事を請け負う立場の業者としては、今後も安定的に公共工事の契約を取るためには、町との関係をこじらせたくないはずだ。それゆえ、町に反論したくても言い出せず、私たちに証言した業者も、匿名を条件に取材に応じてくれたのである。
虚偽報告の発覚から半年間、ずっとこの問題を取材してきた私としては、業者が嘘を言っているとは思えなかった。一方、そうだからといって、町の説明が虚偽だと断言することもできない。
そこで、私たちは情報公開請求をして、町が各業者に聴き取り調査をした際の記録文書を開示するように求めた。だが、町は「調査結果を公表することを想定していない」などとして開示を拒否した。町議会でも一部の町議から聴取記録の提出を求められたが、町は頑なに開示を拒み続けた。
(4章 報道砂漠⑭につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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