取材記『離島記者』

5章 負の連鎖③『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

8ページにわたる意見書で私たちは、国会議員が公人中の公人であることや、憲法で保障された知る権利などを主張した。そして、「屋久島町民の公金が適切に支出されているか否かを判断するためには(国会議員の氏名の)情報を開示することが必要不可欠」と訴えた。

屋久島町情報公開・個人情報保護審査会に提出した意見書の一部

しかし、審査会の反応はとても渋かった。5人の委員からは、「国会議員でも個人情報は一緒」「氏名を黒塗りしているのは屋久島町だけではないので、公開するのはおかしい」といった意見が出され、最終的に私たちの不服申し立ては全会一致で棄却された。

屋久島町が設置した情報公開・個人情報保護審査会なので、町に有利な結果になることは、あらかじめ予想していた。審査会の委員のなかには、旅費着服問題の際に荒木町長の代理人を務めた弁護士も加わっており、町と住民が争う案件に対して、公正公平な判断がなされるとは、とても思えなかった。
 
そこで、私たちは町長交際費の支出状況をまとめて、問題と思われる贈答をすべてリストアップすることにした。行政不服審査などの行政的な手続きに頼ることなく、自分たちの手で調査を進めるためだ。

こんなときに力を貸してくれるのは、日ごろから私の個人事業で経理業務をしている妻である。

日本商工会議所が主催する簿記検定で2級の資格がある妻は、会計帳簿にずらりと並ぶ数字のなかに、ぽつんと一つだけ誤った金額が紛れていても、いつも確実に指摘してくれる。それゆえに、通信販売のサイトで内緒の買い物をすると、すぐにバレてしまって怖いのだが、数字が苦手な文系人間の私にとっては、とても頼りになる。一連の出張旅費不正精算事件で、副町長らが不正精算に使っていた虚偽領収書の大半も、実は妻が見つけ出したものだった。

2017年度から2021年度における交際費支出の記録文書は約650枚もあったが、その分厚い束を妻に手渡すと、それまでバラバラだった支出記録が年度ごとに数十枚の文書に整理された。その結果、過去5年間の支出額の合計は約465万円で、主な内容は贈答費と慶弔費だったことがわかった。

続けて贈答費だけを見ていくと、支出額の合計は全体の約8割にあたる約369万円。贈答の相手先は合計で延べ386あり、その内訳は、国会議員が85人で約122万円、公的機関が176件で約138万円、行政関係者らが125人で約109万円だった。

ここまで数字をはじき出したところで、妻が言った。

「どうして荒木町長は、こんなにたくさんの焼酎を国会議員に贈っているのかしら?」

当初から多いと思っていたが、表にしてみると、焼酎の本数が異常に多いことがわかる。妻がまとめた数字を見ると、その合計は933本になり、国会議員については387本にも積み上がっていた。

荒木耕治町長が国会議員らに贈答した焼酎

「超軟水」と呼ばれる水でつくる屋久島の焼酎は、そのすっきりとした飲み口から人気が高い。花崗岩に覆われた島は表土が薄く、大量に降り注ぐ雨はすぐに森から川、そして海へと流れてしまう。そのため、島の水にはほとんどミネラル分が含まれておらず、屋久島産の焼酎は独特の味に仕上がるのだという。

薩摩芋焼酎といえば口から鼻に広がる芋の匂いが特徴だが、日本酒が好きな私は苦手だった。ところが、島に移住して人気銘柄の「三岳」や「水ノ森」を飲むようになると、口から喉にさらっと流れる味に魅了され、我が家の晩酌から日本酒が姿を消した。また、島東部にそびえる愛子岳の山名を冠した「愛子」は、天皇家の長女、愛子さんが誕生した際に話題となり、定番の島土産になっている。

それほど人気がある焼酎だからといって、過去5年間に1000本近くを贈り、そのうちの約4割が国会議員への贈答というのは、いくらなんでも多過ぎる。私は焼酎の贈答本数が入力された一覧表をじっと見ながら、どうしても知りたくなった。

これだけ焼酎が大好きな国会議員は、いったい誰なのか?

町の職員は個人情報を盾に贈答先の氏名を明かさず、町が設置した情報公開・個人情報保護審査会も、町の言い分をそのまま認めてしまった。情報公開条例や行政不服審査法に照らしても、公人中の公人である国会議員の氏名が黒塗りされてしまうのであれば、最後に残された手段はただ一つ、荒木町長への直接取材だった。

2022年8月2日、取材の申し込みを受けたがらない職員を説得して、鹿島さんと私は荒木町長と面会する約束を取りつけた。その後、町役場2階の町長応接室に通された私たちは、交際費使用伺いの文書をテーブルに広げ、町長が現れるのを待ち構えた。

数分後、柔和な笑みを浮かべて姿を見せた荒木町長が、応接室の最奥にあるソファにゆっくりと腰を下ろした。事前に取材の趣旨は伝えていたので、数々の高額な贈答を知られてばつが悪かったのか、いつもの取材とは打って変わり、険しい表情が消えていた。

今回ばかりは、少しは反省しているかもしれない。町長の顔色にそんな印象をもった私は、最も知りたい国会議員の氏名を単刀直入に尋ねることにした。

「町長、高価な焼酎などをたくさん贈られていますが、最も多いのは森山裕議員ですよね」

すると荒木町長は、「はい、はい」と口早に答えて、私が指摘した贈答先の主をすんなりと認めた。

【左】荒木耕治町長【中央】国会議事堂=Wikimedia Commons より【右】森山裕衆院議員= Wikimedia Commons より

実は私たちは、1人あたりの贈答額が最も多いのは、自民党の森山裕衆院議員だろうと目星をつけていた。森山議員は屋久島町も含まれる鹿児島4区の選出で、荒木町長とはじっこんの仲だ。町が新しい役場の建設を計画した当時は農林水産大臣を務めており、木造の公共施設建設に支給される補助金の獲得に尽力するなど、町にとっては「多大な支援と尽力を受けている」とされる大物議員である。

5章 負の連鎖④につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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