6章 住民訴訟⑤『離島記者』

屋久島ポストの報道を疑う町の主張には、私たちが反論したいくらいだった。森山事務所には確かに取材して、秘書からメールで「贈答品は個人からの贈り物だとの認識だった」と回答を得ていた。

そこで真辺町議は、森山事務所にメールを送り、記事で紹介されたコメントが「事実であるか否かを確認したい」と依頼した。
すると、ほどなく森山事務所から電話があり、秘書が「(取材に)回答したのは、そのとおりです。屋久島ポストさんに回答する文案を私が作りましたので、間違いなくそうです」と説明。記事に掲載されたコメントが事実であると認めた。

9月に開かれた第4回口頭弁論で真辺町議は、屋久島ポストが報じたコメントについて、森山事務所が「そのとおりです」と認めたことを伝えた。それに対し、町は<森山事務所に迷惑をかけるのは本意ではない>として、これ以上は言及しないとした。また、森山事務所の説明に反論することなく、<少なくとも町としては、あくまでも屋久島町長として贈答し、その認識>だと主張した。
個人的な贈答か、それとも公的な贈答か。
その認識について、町は<これ以上は言及しない>としたが、裁判官はさらに深掘りしようとした。
森山議員に贈った12件、約50万円分の他にも、同議員に対する贈答があれば、詳細な内容を明らかにするように指示したのだ。加えて、公費とは別に、私費で荒木町長が森山議員に贈っている場合は、その内容についても説明を求めた。そのうえで、「個人的な贈答を町の公費からしているとしたら問題だと思う」と指摘した。
さらに裁判官は、その他の国会議員に対する贈答にも言及した。町が議員名を黒塗りした贈答のなかで、森山議員以外の氏名、町との関係、贈った目的を説明するように指示したのだ。

この裁判官の「宿題」は意外だった。
町は国会議員の氏名について、「個人情報」だとして開示を拒んできた。それに対し私たちは、行政不服審査法に基づいて設置される情報公開・個人情報保護審査会に不服申し立てをしたが、「国会議員でも個人情報は一緒」などとして、開示請求を棄却されていた。
それなのに、なぜ裁判官は国会議員の氏名を公開するように求めるのか。もし、裁判で議員名がわかれば、それまでの町と審査会の決定が覆されることになる。そんなことがあり得るのかと半信半疑だったが、これも住民訴訟のメリットなのだと思った。

第5回口頭弁論は10月末日に開かれた。裁判官の問いに対し、町は準備書面で回答したが、その内容に驚かされた。森山議員への贈答額がさらに約10万9000円も増え、合計で約60万4000円になったのだ。新たに判明したのは次の3件だった。
➀ 2017年10月30日、森山裕衆議院議員、焼酎「三岳原酒」24本、合計 6万1680円
➁ 2020年6月22日、森山裕衆議院議員、焼酎「三岳原酒」12本、合計 3万2400円
➂ 2021年11月12日、森山裕衆議院議員、焼酎「愛子」2本・焼酎「三岳」2本・焼酎「水ノ森」2本、合計 1万4943円

これで公費による贈答は、森山議員だけで60万円超になり、焼酎の数は計180本になった。一方で、私費による贈答についての説明は不可解な内容だった。裁判官の質問を受けて、町の指定代理人が荒木町長に尋ねたところ、こう答えたという。
<町長になってからも家の住所から個人名で送ってはいたが、いつ何を贈ったかはあまり覚えていない。送り状もとっていないと思う>
だが荒木町長は、その後に<探したところあった>と言って、贈答した際の送り状を2枚示したという。
送り状は証拠提出され、1枚は2020年1月20日に<詰め合わせ>を森山事務所の<森山裕様>宛てに贈ったものだった。もう1枚は同年8月28日に、森山議員とは下の名前が違う<森山〇〇様>(※証拠文書では実名)宛てに<果物>を贈ったときのもので、いずれも差出人の住所は荒木町長の個人宅だった。

提訴前の2022年9月にあった町議会で、荒木町長は町長に就任する前から、森山議員らに対して「個人的なつき合いで私的な贈答を続けている」と説明していた。町長が初当選したのは2011年10月なので、10年以上にわたって私費と公費で二重に贈答を続けてきたことになる。それにもかかわらず、私費による贈答を立証する送り状が2枚しかないのは、どう見ても不自然だった。
これらの経緯を踏まえ、真辺町議は<(荒木町長は)町長に就任して以降、森山衆議院議員ら国会議員への個人的な贈答を取りやめたと考えるのが自然である>と指摘したうえで、<町長就任まで続けていた私費での贈答を代替する形で、公費による贈答を始めたと思料される>と主張した。
それを受けて裁判官は、最近の私費による贈答について「はっきり覚えていなくてもいいので、品物と金額を(荒木町長に)聴いてほしい」と町に求めた。
一方、その他の国会議員への贈答はどうなのか。町が証拠提出した交際費使用伺いを見ると、<衆議院議員■■■■>と隠されていた黒塗りが消えて、国会議員4人の氏名が浮かび上がっていた。

まず鹿児島県の選出議員は、宮路拓馬衆院議員(鹿児島1区)と小里泰弘衆院議員(鹿児島3区)の2人。その他は、谷川弥一衆院議員(長崎3区)と武部新衆院議員(北海道12区)だった。

いずれの議員にも、2021年11月12日に焼酎を6本ずつ贈り、合計の支出額は約6万円になった。宮路、小里の両議員への贈答理由は<日頃から離島振興を含む各種要望活動に協力をいただいている>と説明。また、谷川、武部の両議員は自民党離島振興特別委員会のメンバーで、<日頃から全国離島振興協議会の用務遂行の場で様々な尽力をいただいていた>とした。
同じ日の贈答では、森山議員にも焼酎を贈っていた一方、贈り先に参院議員は含まれていなかった。そこで、その前後にあった国会の関連行事を調べると、同年10月31日に衆院選があり、この贈答は実質的には「当選祝い」だったと思われた。
(6章 住民訴訟⑥につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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