7章 逆風のなかで②『離島記者』

y@kushima-post-administrator@
『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

筆を折る圧力

屋久島ポストに対してだけでなく、屋久島町の役場と議会は自分たちに不都合な情報を伝える報道に圧力をかけてきた。

2019年5月、私が当時、業務委託で記者兼カメラマンをしていたKKB鹿児島放送の本社に、岩川俊広議長ら幹部4人が「面会」と称して乗り込んだときもそうだった。私が全く知らない間に同社の幹部と会い、私がKKBの腕章をつけて取材した議会動画を私的な報道に使っていると、事実無根の報告をしたのだ。

KKB鹿児島放送の本社=KKBウェブサイトより

町議会の幹部が報道機関の本社を訪ね、記者に対する苦情を訴えるのは、極めて異例なことだ。通常であれば、まずは文書や電話などで事情を説明し、それでも問題が解決しなければ、直接面会して話し合うこともあるが、いきなりの訪問はあり得ない対応だった。

さらに岩川議長らの訪問は、屋久島町の住民である私の経済生活を脅かすものだった。私が個人事業主として契約する会社に対し、無断で乗り込むようなことをすれば、契約先との関係が悪くなるのは目に見えていた。しかも、苦情の内容が事実無根となれば、それは損害賠償請求訴訟に発展するような暴挙だった。

その年の10月には屋久島町長選があり、荒木耕治町長の取り巻きは、町の不正や不祥事を報じ続ける私に強い警戒心をもっていた。

町では前年から、山海留学での体罰や入山協力金3000万円の横領事件などが次々と明らかになった。さらに3月には、町の職員が「森づくり推進員」の委託料9万円を「飲み会代」に流用しようとした不正も発覚。私はそれらの問題を取材して、テレビや新聞とは別に、自分が運営するニュースブログで積極的に報じていた。

【左】山海留学での体罰問題を報じる旧屋久島ポストの記事(2018年8月4日付)【右】入山協力金の横領事件について報じる旧屋久島ポストの記事(2019年3月20日付)

そんな私の報道を抑え込もうと思ったのか。町長選が半年後に迫るなかで、岩川議長を筆頭にして、産業厚生常任委員会の委員長だった石田尾茂樹町議ら幹部4人が、わざわざ高速船に乗って鹿児島市まで出張し、KKBの本社を訪ねたのだ。

KKB鹿児島放送を訪問した岩川俊広議長(左)と石田尾茂樹町議=いずれも屋久島町議会の中継モニター画面を撮影

私にとって、岩川議長らの訪問は寝耳に水だった。電話で連絡してきたKKBの幹部が言うには、私がKKBの腕章をつけて取材した議会の動画を、独自のブログで配信していることに対し、どう思うかと意見を求められたという。

しかし、そんな事実はなく、私はKKBのために撮影した映像を自分のブログで配信したことはなかった。そもそも当時、テレビのために議会取材をすることは少なく、それゆえKKBの腕章をつけて議場に入ることはほとんどなかった。

それなのに、なぜ岩川議長らはそんなことを言うのか。

実はその1年ほど前から、私と町議会はもめていた。私はKKBと朝日新聞とは業務委託契約を結んではいたが、立場としてはフリーランスだ。当然だが、テレビと新聞の取材がない場合でも、フリーの記者として議会を取材する。そして、必要があればブログで情報を発信していたのだが、岩川議長はそれが不満だったのだ。

岩川議長は何度も電話をかけてきて、私が2018年6月にブログで配信した数本の議会動画を削除するように求めていた。

それらの動画には、町の新庁舎用に1台10万円で購入する机の予算案をめぐり、町幹部が追及される様子が記録されていた。町は特定の1社から取った見積もりを参考にして、総額2700万円の予算案を提出。本来であれば、2社以上が出した見積書を基に予定価格を設定したうえで、複数の業者が参加する競争入札を経て納入業者を決める必要があったが、各町議には購入予定の机や椅子の写真まで示していた。これでは町が内々に納入業者を決めたようなもので、「官製談合」が疑われる事態だった。

屋久島町議会が削除を求めた動画が掲載された旧屋久島ポストの記事(2018年6月23日付)

ただしマスコミにとって、こんな問題は「些細な話」であり、ニュースとして報じることはない。だが、住民にとっては町の公費に関わる大切な問題なので、私は独自にブログで報道を続け、多くの住民の関心を集めていた。岩川議長はそれを止めたかったのだが、議長の権限で私の取材を制限することはできなかった。

そこで、岩川議長が思いついたのが、「議会取材はマスコミにしか許可していない」という口実だった。それに対し、私は「フリーの記者として取材し、必要に応じてテレビや新聞、独自のブログなどで報道している」と主張して、それまでどおりに取材を続けた。

そもそもだが、町議会の傍聴規則には、議場での取材をマスコミだけに制限する規定はない。議長が許可をすれば、誰でも撮影や録音ができると定められている。私もそのルールに従って、フリーの記者として取材していたのだが、岩川議長は納得していなかった。

そのため、岩川議長らは私に通告文を出し、ブログでの報道をやめるように警告しようと考え、2018年7月の議会運営委員会で対応を話し合った。

(7章 逆風のなかで③につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

【ご感想・メッセージ】
取材記『離島記者』に関するご感想やメッセージなどは、以下のフォームよりお寄せください。→ https://forms.gle/393iKVFjZ8X5Smzg8

『離島記者』配信記事一覧
https://yakushima-post.com/ritokisha-front

関連記事
これらの記事も読まれています
記事URLをコピーしました