取材記『離島記者』

6章 住民訴訟④『離島記者』

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社会通念上妥当な金額の贈答とは?

特定の国会議員や知人社長らに5年間で焼酎933本や魚介類などを贈り、支出した総額は約369万円。そのなかには、1件で10万円超の贈答もあり、公費である町長交際費の使い方として、一般住民には理解が得られない状況が続いていた。

荒木耕治町長が国会議員らに贈った焼酎やイセエビ、ポンカンなど

だが荒木耕治町長は、贈り物によって「町には大きなメリットがあり、そのお礼として贈答している」と町議会で説明。一連の高額な贈答は「社会通念上妥当と認められる額」と主張して、町長交際費の支出ルールを見直そうとはしなかった。

国会議員らへの贈答について答弁する荒木耕治町長=2022年9月13日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより

「このままでは、ずっと法外な金額の贈答が続くことになる」

そう危惧した真辺真紀町議は2022年9月、この問題を町議会で指摘したのちに住民監査請求をした。補助金不正の住民訴訟に続き、町長による高額な贈答についても、司法の判断を仰ぐためだ。

前回の訴訟と同じく、住民監査請求は提訴前の要件を満たすための「通過点」だった。請求が11月に退けられると、真辺町議はすぐに訴状を鹿児島地裁に送り、町に対して、荒木町長に約193万円の損害賠償を請求するように求める住民訴訟を提起した。

鹿児島地方裁判所

補助金不正の住民訴訟と同様に、屋久島ポストからは情報公開請求で入手した贈答記録などの文書を提供し、配信した記事も証拠にしてもらった。また、裁判方針の検討や訴状の作成などでは、前回の訴訟に引き続き、本人訴訟の経験者や弁護士らが協力した。

訴状によると、荒木町長は交際費を使い、2017年度から2021年度の5年間に国会議員や知人社長らに焼酎や魚介類などの高額な贈答を続けた。その内訳は、自民党の森山裕衆院議員(鹿児島4区)に12件で約50万円、知人社長に8件で約38万円、菅義偉元首相を含む国会議員や鹿児島県知事らに36件で約105万円。その合計となる56件、約193万円が違法な支出だとして、荒木町長はその全額を町に賠償するべきだとした。

賠償請求額のなかには、森山議員や知人社長に対して支出した1件で数万円から10万円分の贈答も複数含まれていた。訴状のなかで、真辺町議は<社会通念上妥当と認められる額を逸脱した支出><納税者である町民の理解が得られない金額>などと主張した。

町長交際費をめぐる住民訴訟の訴状 ※一部にモザイク加工をしています

裁判は2023年2月から始まり、12月までの10カ月間に計6回の口頭弁論が開かれた。前回と同じく、町は河野通孝・法務事務専門員と総務課の職員を指定代理人にして、請求の棄却を求めて争った。

最大の争点は1件で数万円から10万円の贈答が、一般の社会通念に照らして、妥当な金額かどうかだった。交際費について定めた町の要綱では、贈答で支出できるのは「社会通念上妥当と認められる額」とされ、上限が決められていない。そのため、町長が「妥当」と判断すれば、それが町の「社会通念」になる状況が続いていた。

訴状に対し町は、贈答によって<直接的に国とのパイプとなりえる国会議員とのつながりを維持し、発展させていくことは町政にとって重要かつ必要不可欠>と説明。さらに<これまでの助力、 協力に対する謝意を示すとともに、今後とも一層の信頼関係、友好関係を維持、増進することを目的としてなされた>として、一連の贈答についてこう主張した。

<社会通念に照らして著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を逸脱、濫用したものとはいえない>

町長交際費をめぐる住民訴訟で被告の町が提出した答弁書 ※一部にモザイク加工をしています

この主張を受けて、真辺町議は鹿児島県内の各自治体と屋久島町の交際費を比較した。ウェブサイトで交際費の支出状況を公表している自治体のうち、1件あたりの贈答額が確認できる14市町を調査。すると、平均額の最高は阿久根市の約9200円、最低は薩摩川内市の約2800円となり、全体では約5000円となった。

この結果を踏まえ、森山議員に対する計約50万円分の贈答について、真辺町議は<高級焼酎36本をまとめて贈り、1件で約10万円を支出したケースもあり、他の自治体と比べても、桁違いに突出した金額>と主張した。

平均5000円という県内14市町の贈答額が気になったのか、裁判官は町に「宿題」を出し、主張を補充するように求めた。

最初の問いは、森山議員への贈答理由についてで、町の説明は「抽象的」であり、なぜ贈答を続ける必要があるのか、詳細に説明するように指示。加えて、他の自治体で国会議員に対する同様の贈答例があるのか否かを示すように求めた。

さらに裁判官は、町が贈答理由とする「町産品のPR」について、イセエビなどの魚介類は生もので、「個人で消費するしかないと思われるが、本当にPRになっているのか」と疑問を呈した。

裁判所の指摘は、屋久島ポストが取材しても、町が説明しなかったことだった。それが司法の場となれば、町も説明せざるを得なくなるということで、あらためて住民訴訟の利点を感じた。

町が7月の第3回口頭弁論で提出した準備書面には、荒木町長が大量に贈り続けていた焼酎について、どのように消費されたのかが記されていた。まずは、森山議員の事務所で面会した国会議員らに焼酎を贈ったのは、次のような理由だったという。

<屋久島町の今後における行政運営の円滑な遂行のために今後一層の協力、尽力を得られるようにとの趣旨あるいはその人脈をとおして屋久島特産の焼酎のPRをお願いするという趣旨>

荒木耕治町長が国会議員らに贈答した焼酎

また、焼酎に加えて、イセエビやアサヒガニ、水イカといった魚介類については、<森山議員の事務所を訪れる多くの国会議員や報道機関の記者等に対する接待の際の賄いに供していただくことなどを期待して贈った>と説明した。

だが、具体的な議員名や年月日は記されておらず、それらの贈答や接待が本当にあったことを立証する証拠も示されなかった。

さらに、他の自治体による国会議員への贈答例については、<副大臣就任祝いの際の花代といった場合には5万円を超える>宮崎市のケースなど数例が示された。しかし、特定の国会議員に対して、集中的かつ継続的に贈答している屋久島町のような例はなかった。

これらの説明を踏まえ、再び裁判所から町に疑問が呈された。

森山議員への贈答について、裁判官は「違法かどうかは別として、内容と金額を見ると多いという印象がある」と指摘。町長交際費の金額には法的な規定がないことから、「町として、いくらぐらいが適切かを考える意思はないのか」「(交際費の支出から)1年未満の部分については、返還する考えはないのか」と質問した。

その問いに対し町の河野専門員は、「適切」だと思う贈答額については「町長に伝えておきます」と回答。交際費の一部返還には「(返還する)考えはない」と即答した。

森山裕衆院議員ら国会議員の事務所が置かれている議員会館=東京・永田町、Wikimedia Commons より

一方で真辺町議は、森山事務所が屋久島ポストの取材に「荒木町長個人からの贈答」との認識を示したことを根拠に、「森山事務所は私費での贈答だと思っているので、贈答品を渡された国会議員も、その認識だと思う」と主張。それに対し、町は「送り状の住所が町役場になっていて、送り主も屋久島町長・荒木耕治と書いてあるので、先方は公費による贈答だと認識していると思う」と反論した。

荒木耕治町長が森山裕衆院議員に焼酎を贈答した際に作成した宅配便の送り状 ※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストがそれぞれ加工

それでも真辺町議は引き下がらず、町の主張が報道の内容と食い違っていることを訴えた。だが、町の法務事務専門員は「記事に書いてあるだけですよね」と言って、原告の主張を一蹴した。

6章 住民訴訟⑤につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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