5章 負の連鎖⑰『離島記者』

町議会としては、何も対応しない。
そう宣言した石田尾議長に対し、真辺町議ら一部の町議は黙っていなかった。2023年9月5日に開会した定例会に、岩山町議の辞職勧告決議案を提出したのだ。
提案理由を説明する真辺町議は、冒頭で住民が撮った現場の証拠写真をすべての町議に示して言った。
「投棄された廃棄物の山には、窓枠やドア、壁紙、パイプなどのリフォーム工事で出た廃材がたくさんあります」
「真っ黒に焦げた地面には、燃え残った金属片や畳、空き缶などが写っています」

そのうえで、8月28日の全員協議会で、岩山町議が「法律違反に問われたのは木くずを燃やしたこと」とした説明に対して、「大きな矛盾があり、信じることはできない」と指摘。さらに、こう主張して岩山町議を批判した。
「世界自然遺産の屋久島で、現職の町議会議員が廃棄物を焼却して有罪になったことは、屋久島町民1万2000人の代表として、決して許されることではありません」
また、不法投棄をする1年前の一般質問で、岩山町議がごみを捨てる住民が多いことを批判し、ごみのポイ捨てに罰金を科す条例の制定を提案したことなどを踏まえ、真辺町議は辞職を迫った。
「これ以上、岩山議員が町議会議員であることは許されず、屋久島町議会の信頼を取り戻すためにも、速やかな議員辞職を強く勧告します」

その様子を議会中継モニターで見ていた私は、どんな反対討論が出てくるのか、とても注目していた。だが、いつもなら猛反対してくる多数派の町議たちは、じっと口を閉じたまま沈黙した。
その一方、賛成討論をした渡辺千護町議は手厳しかった。この事件について、「子どもたちに人の物を盗んではいけないと教えている学校の先生が、万引きや盗みをしたのと同じか、それ以上のことだ」と指摘したうえで、強く訴えた。
「屋久島の将来を担う子どもたちに、これ以上の悪影響を与えないためにも、屋久島町の歴史のなかで、町議会議員として初めて有罪となった岩山議員は、速やかに辞職すべきである」

ここまで終わると、次は注目の採決となる。石田尾議長の呼びかけで各町議が手元のボタンを押すと、議会中継用のモニター画面には、それぞれの賛否が表示された。
注目の結果は、賛成10人、反対3人。なんと、岩山町議に対する辞職勧告決議案は可決されたのだ。
賛成ボタンを押した町議10人の名前をモニターで見ながら、私は少しだけ安堵した。我が町の議会にも、ほんのわずかだけでも良心が残っていた、ということである。
ただ、それでも3人は反対した。議事進行をする石田尾議長は採決に加わっていないので、その合計は4人だったかもしれない。
そう思うと、易々と安心してはいけないと、私は思い直した。

さて、この日も役場内の議会中継モニター前で取材した私だったが、散会となったばかりの議場に行ってみると、とても残念な気持ちになった。議員辞職勧告決議が決まったのに、議場内で取材していたのは地元紙の南日本新聞だけだったのだ。これではテレビの報道もなく、町議会が岩山町議に辞職を迫った事実を広く知ってもらえないと、すっかり落胆してしまった。

ところが、その日の夕方、予想もしない連絡が私たちに入ってきた。屋久島ポストの「問い合わせ先」としてネットで公開しているメールアドレスに、「テレビ朝日 グッド!モーニング 取材依頼に関して」と題するメールが飛び込んできたのだ。そしてメールの文面には、こう書かれていた。
「現在、屋久島町議会の岩山鶴美町議がアパート廃材を不法焼却した事件について情報を集めておりまして、屋久島ポスト様へこの件についてお話を伺えればと思いご連絡いたしました」
これには驚いた。鹿児島県内のテレビ局は積極的に取材していないのに、東京のテレビ朝日がこの問題に興味を示しているというのだ。すぐに私が担当のディレクターに電話をして、詳しい用件を尋ねると、この不法焼却事件を朝の情報番組で取り上げたいという。
そこで私たちは、これまでの取材で集めた現場の証拠写真や独自に撮影した動画素材をまとめて、ネットのファイル転送サービスで送信した。さらに、この事件に関わる詳細な情報については、屋久島ポストで配信した記事のアドレスを送って、参考にしてもらった。
そして9月7日朝、情報番組「グッド!モーニング」は<「これは悪質」屋久島に大量のごみ 町議が不法投棄か>のタイトルで、住民が撮影した写真などを紹介。さらに<過去には…自ら条例提案も>として、岩山町議が事件を起こす1年前の町議会で、ごみのポイ捨てにも罰金を科す条例の制定を提案していたことも伝えた。

放送はこれだけでは終わらず、同日夕方のニュース番組「スーパーJチャンネル」でも<町民は怒りをあらわに「これが住民の代表かと」>と題して報道。それに加えて、テレビ朝日の動画配信サイトなどでも映像が流され、全国の視聴者に伝えられた。

テレビ朝日の報道を見た私は、横並び一線の取材に甘んじている鹿児島のマスコミに疑問を感じた。この事件について、どこか一つでも地元のテレビ局が積極的に報道していたら、複数の局がもっと取材していたであろう。だが、私たち市民メディアが力を入れているだけなので、辞職勧告決議の取材をする地元テレビの記者はいなかったのである。
かくして、世界自然遺産の島を汚した現職町議の不法焼却事件は全国に報じられた。
ところが、それから3カ月が過ぎると、もうほとぼりが冷めたとでも思ったのか、岩山町議は議員として「続投」すると宣言した。12月6日に開かれた全員協議会で進退を問われ、次の町議選までに残された1年9カ月間の任期を全うすると答えたのだ。
「進退については残りの期間をしっかりと務めていくことが、皆さんに対しての態度だと思うので、それ以上でも、それ以下でもなく、しっかりと務め上げていきたい」
この事件について、屋久島ポストが初報を打ってから1年10カ月。現場を目撃して、証拠写真を撮った住民の力で、「注意」で終わったはずの事件は再捜査になった。そして、最終的に罰金50万円で有罪となり、岩山町議は辞職勧告を突きつけられた。
しかし、町議会の議員辞職勧告決議に法的な拘束力はない。辞職するかどうかは、岩山町議の意思に委ねられており、この先はどうすることもできなかった。
(6章 住民訴訟①につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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