5章 負の連鎖⑮『離島記者』

2023年8月25日には定例会が開会したが、岩山町議が事件について住民に謝罪することなく、じっと議場で沈黙を貫いた。閉会後には、周りにいた荒木町長やベテラン町議は、傷心の岩山町議を気遣ってのことか、次々と笑顔で声をかけていた。
取材で議場に入れてもらえず、その様子を議会棟の廊下から眺めていた私は、あらためて強く、この屋久島町議会が「住民不在」で運営されていることを実感した。

石田尾議長をはじめ、多くの同僚議員らに守られた岩山町議ではあったが、屋久島町政のなかでは、史上初めて有罪となった現職町議である。それゆえにマスコミの関心は高く、岩山町議が事情を説明する8月28日の全員協議会には、鹿児島市内から複数のテレビ局や通信社の記者が取材に来る予定になっていた。
当然だが、そのなかで私たちも肩を並べて取材するつもりだったが、とても大きな懸案があった。屋久島ポストは日本新聞協会などに加盟していないため、市民メディアであっても「報道ではない」として、石田尾議長から議場内での取材を拒否されていたのだ。通常の本会議であれば、役場内の議会中継モニターをビデオ撮影して取材できるが、全員協議会が中継されることはない。
そうなると私たちは、岩山町議が説明する様子を一切取材できないことになる。
その事態だけは、なんとしても避けなければならなかった。鹿島さんと私は、石田尾議長に取材許可を求めるために、<全員協議会の取材許可のお願い>と題する文書を議会事務局に提出した。
<今回の全員協議会では、屋久島町の町政史上としては初めて現職町議が有罪となった事件について、町議本人から説明があるということで、多くの屋久島町民が関心を寄せています。町政をめぐる問題の取材を続けている屋久島ポストとしては、憲法で保障された市民の知る権利を守るためにも、本日の全員協議会はぜひとも取材をしたいと考えており、議場内での撮影および録音を許可していただくことをお願い申し上げます>

屋久島町議会には傍聴規則があり、議長の許可を受けさえすれば、誰でも取材できるルールになっている。
しかし、石田尾議長の姿勢は強硬だった。これまでと同様に、屋久島ポストは「報道ではない」と断じて、この日の議会取材も拒否してきたのだ。
ただし、一つだけ「譲歩」を引き出すことができた。当初から私たちは、石田尾議長が取材を拒否することを見込んでいたので、許可依頼の文書のなかに、妥協案の一文をつけ加えていた。
<全員協議会の取材を許可していただけない場合は、本会議と同様にフォーラム棟のテレビモニターで、協議の様子を視聴できるようにしていただくことをお願いいたします>
もし、これを認めなかったら、猛抗議を受けると考えたのであろう。鹿島さんが議会事務局へあいさつに行くと、石田尾議長はあいそ笑いを浮かべながら、「特例ですよ」と恩着せがましく言ってきた。
注目の全員協議会が始まる8月28日午後3時。役場内にある議会中継モニターの前でビデオカメラの三脚を構えたのは、たった独り、私だけだった。本会議場に入ってもらった鹿島さんからは、傍聴席には約20人の住民に加え、鹿児島テレビ、鹿児島放送、共同通信、南日本新聞の4社がいると、携帯電話で報告があった。
この事件を1年半も前から報道していたのは、屋久島ポストだけだった。その一方、マスコミ各社が報じ始めたのは、半月前に岩山町議が罰金50万円の略式命令を受けてからである。
それにもかかわらず、どうして私だけが議場から締め出されなくてはいけないのか。頑なに取材を拒否する石田尾議長には、これ以上ないほどの理不尽を感じつつ、私は黙ってビデオカメラの録画ボタンを押し、釈明する岩山町議の取材を始めた。

それまでの取材に対し岩山町議は、検察官と話したことはなく、略式起訴にも同意していないと説明してきた。
だが、冒頭で出てきたのは住民への謝罪だった。
「私の廃棄物処理法違反の件につきましては、町民の皆さまには、大変なご心配とご迷惑をおかけいたしました」
もし検察官と話してもいなければ、略式起訴されることはなく、当然だが罰金50万円で有罪になることもない。どうやら私たちの取材に、岩山町議は嘘をついていたようだ。

それに続く経緯説明も、罰金命令を受けた事実を踏まえれば、どこまで本当なのか怪しいものだった。
岩山町議は2020年6月に自宅兼賃貸アパートをリフォームして、工事で出た廃棄物を親族が所有する畑に仮置きした。続いて9月14日に、その現場を目撃した住民が警察に通報したことで、岩山町議は警察で事情聴取を受けた。だが、廃棄物を仮置きしていることを伝えると、「警察官は納得した」という。
それから3カ月が経った12月、岩山町議は「枯れたタンカンの枝」を畑で燃やす際に、「つい、うっかり一緒に」廃棄物の一部を燃やした。その後、焼却現場を目撃した住民が再び警察に通報したため、また警察に事情を聴かれることになった。
ここで私は、「つい、うっかり一緒に」という言葉に大きな疑問をもった。焼却前に撮影された大量の廃棄物が、すべて丸ごと焼却されたのである。緑の畑を真っ黒に焦がした現場の写真を見れば、「枯れたタンカンの枝」を燃やすついでに、廃棄物の一部に火を入れただけだとは、全くもって思えなかった。

岩山町議に対する警察の事情聴取は、2021年2月から3月のうちの計4日間で、焼却現場での検証もあった。その後に鹿児島地検から聴取されたのち、検察官からは電話で「今回のことは注意ということになった」と告げられ、事件は終わった。
なぜ「注意」という結果になったのか、とても不可解だった。だが、捜査機関の検察に関する説明であり、さすがにここで虚偽の説明はしないだろうと、「注意」については信じられる気がした。
それでは、すでに終わったはずの事件が、どうして再捜査となったのか。それを紐解く岩山町議の説明は実に興味深いものだった。
「屋久島ポストによると、私が前回注意で処理されたことで町民から、なぜ町議は注意なのか、それが事実なら不公平な捜査だ、といった批判の声が出ていることを受け、町民の方が2022年2月7日に鹿児島地検に刑事告発をされたようであります」
どうやら岩山町議は、検察官から再捜査になった理由や経緯を知らされていないようだった。「屋久島ポストによると」と言って、私たちの記事を引用までして説明したところをみると、本当に何も事情がわからないまま、再び地検から呼び出されたのだろう。
(5章 負の連鎖⑯につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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