6章 住民訴訟⑦『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

もう一つ大きな争点となったのは、住民訴訟を提起するうえで、その前提要件となる住民監査の請求が可能な期間をめぐる解釈だった。

地方自治法では、住民監査請求について<当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない>と定められており、問題となる公費の支出から1年が過ぎてしまうと、住民監査請求ができないとされているのだ。

この訴訟で問題となったのは、2017年度から2021年度に支出された交際費だった。それに対し住民監査請求が出されたのは2022年9月で、問題となる贈答の大半は、交際費の支出から1年以上が過ぎており、法的には監査を請求することができなかった。

そこで真辺町議は、同法の条文にある<ただし、正当な理由があるときは、この限りでない>という規定に基づいて、2022年8月に屋久島ポストが報道するまでは、一連の高額贈答について知り得なかったと主張。さらに、町が贈答先の氏名をすべて黒塗りしているため、特定の国会議員らに<集中的かつ継続的に贈答している事実を確認することは不可能>だったと訴えた。

屋久島町長の交際費問題について報じた屋久島ポストの記事

この主張に対し町は、原告が町議であることを理由に、<客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為及びその内容をしることができた>と指摘。報道で知り得たとする主張は、<到底「正当な理由」の根拠となり得るものではない>と反論した。

屋久島町役場

この訴訟を取材した私としては、原告に有利な形勢で裁判が進んだという感触だった。一連の贈答に対し裁判官が「金額が多い印象」と指摘したり、黒塗りだった国会議員の氏名を開示させたりして、おそらく町には苦しい展開だったのではないかと思われた。

ただ一点だけ心配だったのは、住民監査の請求期間をめぐる判断だった。真辺町議と町がそれぞれ主張したが、裁判官は突っ込んだ指摘をせず、ほとんど審理がなされなかったのだ。

それを善意に解釈した私たちは、裁判官が「正当な理由」を認めたと思っていた。だが一方で、もし認められなければ、大半の請求は法的な判断がなされないまま、大半の請求が却下されてしまう恐れがあった。

鹿児島地方裁判所の法廷(左)と外観=裁判所ウェブサイトより

そして、判決を迎えた2024年3月5日、その心配は現実になってしまった。鹿児島地裁は「正当な理由」を認めず、高額な贈答の違法性を判断することなく、大半の請求を却下したのだ。

判決の言い渡しで裁判長は、原告が損害賠償を求めた贈答56件分の約193万円のうち、50件分の約173万円について<監査請求期間の徒過>を理由に請求を却下。そのなかには、1件の贈答で高級焼酎を36本贈り、約10万円を支出したケースなどもあったが、贈答の支出に対する法的な判断には踏み込まなかった。

屋久島町長の交際費をめぐる住民訴訟の地裁判決文(2024年3月5日付)※一部にモザイク加工をしいています

ただし判決理由では、森山議員に対する一部の贈答に対して、疑問が呈された。原告が問題視した1件で数万円から約10万円を支出した数例の贈答については、<これらの贈答が社会通念上儀礼の範囲内のものであるかについては疑問の余地がある>と指摘した。

また、知人社長への贈答で支出した計約38万円については、<社長に対する贈答が同社長と荒木との私的な関係を背景に同社長を私的に優遇する趣旨のものではないか>という疑念を抱かせると指摘。さらに、原告が<公金の支出に対する世間の厳しい目やコンプライアンスの観点も踏まえ、住民から疑念を抱かれるような交際費の支出はなされるべきではない>とした主張を受けて、町として<真摯に受け止めるべき点が少なくない>との見解が示された。

屋久島町長の交際費をめぐる住民訴訟の地裁判決文の一部。知人社長への贈答について、「社長を私的に優遇する趣旨のものではないか」との疑念があるといった厳しい指摘がみられた(2024年3月5日付)

一方、交際費の支出から1年以内に住民監査請求された残り6件、約19万円分の贈答については、<社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものということはできない>として、支出の違法性を否定。その贈答が当選祝いであっても、国会議員との信頼関係を維持増進するためには認められるとの判断が示され、原告の請求は棄却された。

住民勝訴は堅い。そう期待して傍聴席で取材していた私は、すべての請求が退けられる結果に落胆した。ただし、この住民訴訟が始まってからは、国会議員に対する贈答はすべて中止されており、提訴したことで大きな成果があったことは明らかだった。

閉廷後、マスコミ各社の記者に囲まれた真辺町議は、「残念な判決でしたが、訴訟が始まってから高額な贈答は一切なくなり、実質的に町長は交際費の支出を見直したと受け止めています」と指摘。控訴については、「本来の目的は裁判ではなく、交際費の支出を庶民感覚で納得できる金額にすることなので、高額贈答がなくなった現在の状況が続けば、目的は達成できたと考えています」と語った。

一方で荒木町長は、総務課を通じてコメントを出した。

「町の主張が認められた判決になり安心した。今後の交際費については、相手方、内容、金額を慎重に検討して支出していきたい」

結局、真辺町議は控訴せず、住民訴訟の判決は確定した。

そこで私たちは、2023年度に使われた町長交際費について、町のウェブサイトで確認してみた。すると、過去6年間の支出額からは大幅に減り、約16万円だったことがわかった。最も多かった2019年度は約126万円なので、9割もの減少となった。

屋久島町長の交際費をめぐる住民訴訟を受けて、町長交際費の支出が減ったことを伝える屋久島ポストの記事

この取材結果を受けて、私は記事に<町長交際費が激減 最盛期の126万円から16万円に>と見出しをつけながら思った。

「この訴訟は、実質的に住民側の勝訴だった」

(7章 逆風のなかで①につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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