取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑫『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

町議会では「屋久島町議会傍聴規則」を設けていて、その9条に次の規定がある。

<傍聴人は、傍聴席において写真、映画等を撮影し、又は録音等をしてはならない。ただし、特に議長の許可を得た場合は、この限りでない

この条文に従えば、議長が許可すれば、誰でも議場内で撮影と録音ができることになる。そこで、私たちは議長室に出向き、撮影禁止の理由を尋ねたが、石田尾議長はこう言って取材を拒んだ。

「議会での録音と撮影は原則禁止で、報道(機関)については、議長の判断で特別に許可しています。屋久島ポストは県庁記者クラブや日本新聞協会などに加盟して、法人登録もしているんですか?」

なんとも時代錯誤で、差別的な理由だった。

新聞社やテレビ局しか入れない日本新聞協会などの加盟が条件になれば、ほんのひと握りのマスコミしか取材できず、その他の雑誌やフリーランスの記者はすべて排除されてしまう。普段は誰も取材しない離島の議会なのに、特定のマスコミだけに取材を制限すれば、実質的に屋久島町議会は誰からも取材を受けないということになる。

議場での取材について石田茂樹議長(左)と交渉する屋久島ポストの鹿島幹男代表(右)=2019年11月26日、屋久島町役場の議会棟

こんな主張を許すわけにはいかず、私はこう反論した。

「今では、首相官邸などの記者会見でもフリーの記者が取材しています。住民に開かれた議会をめざしている屋久島町議会としては、時代の流れに逆行する判断ではないですか」

だが、それでも石田尾議長の態度は頑なだった。馬の耳に念仏で、いくら説明しても無駄だとは思ったが、さらに私は続けた。

「国民の知る権利は憲法21条で保障されていて、日本新聞協会などに所属していないフリーの記者も報道の仕事をしています。議長が認めれば取材できるのに、それを禁止したら、住民の知る権利を奪うことになるのを理解していますか」

正論中の正論で説明しても、石田議長は首を縦に振らなかった。ここまで頑なだと、荒木町長に「うるさい屋久島ポストは排除しろ」と、厳命されているのかと思ってしまうほどだ。

そうはいっても、石田尾議長の命令に従う気は微塵もなかった。鹿島さんと私は全員協議会が始まる直前まで粘り続け、最後は「今回限りの特例」との条件はついたが、議長に取材を認めさせた。
 
議長と押し問答を続けた末に、なんとか潜り込んだ全員協議会だったが、荒木町長や担当課長からは、耳を疑う説明が相次いだ。

国庫補助金の不正請求事件を受けて開かれた屋久島町議会の全員協議会=2019年11月26日

まずは、荒木町長が虚偽報告の事実を知らされたのは2021年4月14日だったのに、それから5日後の4月19日に国から補助金を受け取っていたというのだ。工事が未完成の段階で、「すべての工事が終わった」と虚偽の報告をしたとなれば、それは補助金適正化法に違反したことになり、すぐに国に報告しなければならない。それにもかかわらず、荒木町長はだんまりを決め込んだまま、国から補助金の振り込みを受けていたのだ。

こうなると荒木町長は、担当職員が虚偽の報告書を国に提出したことを知りながら、約7カ月間にわたって、その事実を国に報告しないまま放置していたことになる。町が県を通じて国に報告したのは11月11日で、それまでの期間には、工事が未完成であるにもかかわらず、町は工事代金を業者に前払いまでしていた。

私は荒木町長の説明を聞きながら、意図的な隠蔽を疑われても仕方がない状況だと感じた。

国庫補助金の不正請求について説明する屋久島町の荒木耕治町長(右)。左は日高豊副町長=2019年11月26日、屋久島町議会

次に担当課長の説明に移ると、今度は自らの管理責任を放棄するかのような発言が飛び出した。

国への報告が虚偽の内容になったのは、「履行期限までに工事を完了しなかった業者に第一義的な責任がある」というのだ。町としては、年度内に工事が終わることを前提にして、国に「すべての工事が終わった」と報告したところ、業者が予定どおりに工事を終えられず、約束を破ったということだ。

だが、町は国に実績報告書を出す際に、工事が完成したことを証明する検査調書を添付していた。少なくとも、その検査調書を作成した段階では工事は未完成であり、担当職員が虚偽の工事完成日を記載していたことは明らかだった。

それにもかかわらず、担当課長が「業者に第一義的な責任がある」というのは、どうにも理解できなかった。加えて、荒木町長も「工期を遵守できなかった業者には、人手をかける等の努力を怠った責任がある」と発言。これでは、公共工事の発注側と受注側という主従関係を背景に、町が業者に責任を押しつけているようだった。

町長らの説明に対し、一部の町議からは「工事が未完成なのに、工事代金を支払ったのは大問題だ」「現場の写真を送ってもらって確認ができたはずで、怠慢があったと言わざるを得ない」などと批判の声が出た。

その一方、町長を支持する多数派の町議たちは全く発言せず、開会中の約1時間をじっと沈黙で貫いた。

全員協議会が終わったのちに取材に応じる屋久島町の荒木耕治町長(中央)=2019年11月26日、屋久島町役場の議会棟

この全員協議会の様子は、テレビのニュース番組でも流され、ようやく虚偽報告の問題が町内外で知られるようになった。屋久島ポストが放った初報が地元紙の報道につながり、それがテレビのニュースとなって広く伝わっていく。どれほどの影響力があるのか、初めは半信半疑だったが、私はブログを駆使した市民メディアの力を少しずつ確信し始めるようになった。

日ごろは町長に寄り添う多数派の町議も、今回の補助金不正請求については、さすがに黙認できなかった。全員協議会に続いて12月7日に開かれた定例会では、問題となった水道工事の決算が審議され、全会一致で不認定となった。

この採決の前にあった報告で、10月に事前審査をした決算審査特別委員会の委員長を務める榎光徳町議は、「一部職員の不適切な対応により、多くの町民や町内外に大きな失墜を与えた」と指摘。補助金不正請求の第一義的な責任は工事業者側にあるとしながら、「事業を監督する町長はじめ職員の責任は多大だ」と厳しく批判した。

国庫補助金不正請求の審査について説明する決算審査特別委員会の榎光徳委員長=2021年12月7日、屋久島町議会、議会中継のモニター画面を撮影

榎町議は荒木町長に最も近い町議の一人だ。出張旅費不正をめぐる議会審議の際には、町長の旅費着服を証言した住民に対し、岩山鶴美町議と同様に「議会で名乗り出られるのか」と迫り、一貫して町長を擁護する姿勢を続けてきた。だが、今回は国の補助金に関わる不正であり、そのまま見て見ぬふりはできなかったのであろう。

4章 報道砂漠⑬につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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