取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑪『報道砂漠』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

屋久島ポストが創刊した翌日の11月10日、南日本新聞は社会面で<簡易水道工事の完了日一部偽る 屋久島町>と報道。一段見出しの小さな「ベタ記事」ではあったが、町が国に虚偽報告をした事実など、屋久島ポストとほぼ同じ内容を報じた。

国庫補助金の不正請求について報じた南日本新聞の記事(2021年11月10日付)※著作権保護のため記事本文にモザイク加工をしています

目立たない記事でも地元紙に載ると、それまで沈黙していた屋久島町も動かざるを得なくなった。翌11月11日には、日高豊副町長と担当課長が鹿児島県庁を訪ね、補助金の窓口となる生活衛生課に事情を説明したという情報が、町の関係者から飛び込んできた。

副町長らが県庁に出向いたと知った私は、すぐに県の生活衛生課に電話を入れた。「屋久島ポスト」と名乗って、県庁に取材をするのは初めてのことなので、最初は応じてもらえるかどうか少し不安だったが、意外にも担当者の取材対応は丁寧だった。

鹿児島県庁=Wikimedia Commons より

その担当者によると、日高副町長らは虚偽報告の事実を認めたうえで、「国の補助事業部分の工事は終わっていたが、町が単独で実施する事業部分の工事が終わっていなかった」と釈明。それに対し、県からは「本来はすべての工事が終わってから事業実績報告をするべきだった」との認識を示したという。

私たちの取材にも、町は「国から補助金を受けた部分の工事は完成していた」と釈明していた。だが、すべての工事が終わっていなかった以上、虚偽報告をした事実に変わりはなく、県としては「不適切な報告」だったと判断したということである。

そうなると、補助金を支給した厚生労働省にも見解を求めなくてはならない。だが果たして、鹿児島の離島で生まれたばかりの市民メディアの取材に対し、東京・霞が関の役人がまともに応じるかどうかはわからなかった。

厚生労働省が入る合同庁舎=厚労省ウェブサイトより

思い返せば、新聞社で働いていたころは、そんな心配をする必要は全くなかった。取材相手が私を知らなくても、社名を伝えさえすれば、すんなりと取材に応じてもらえた。

いっそのこと、市民メディアの取材だと言わずに、フリーランスの記者として話を聴こうかとも思った。だが、その取材で得た情報は、厚労省を主語にした記事として、屋久島ポストで配信することになる。メディア名を伝えないわけにはいかなかった。

厚労省への取材は必須であり、電話するのをためらっている場合ではなかった。私は厚労省の代表電話から担当の医薬・生活衛生局水道課につないでもらい、こう言って取材を申し込んだ。

「鹿児島県屋久島町にある市民メディアで、屋久島ポストの記者をしている武田と申しますが、国の補助金を受けた水道工事で、町が虚偽の報告をしていた件で、取材をお願いしたいのですが」

すると、私の心配をよそに、電話に出た担当者は淡々と取材に応じた。虚偽報告については、すでに県から情報が上がっているようで、細かく説明する必要はなかった。

まず私は、「今回の虚偽報告について、どのような対応をされますか?」と尋ねてみた。すると、担当者は「最初に正しい内容を記載した実績報告書を提出してもらい、それを踏まえて、補助金適正化法に違反するのか否か、法的な判断をします」と言った。

ここで、初めて補助金適正化法という名称が出てきた。補助金の目的外利用や不正受給を禁止する法律で、違反した場合は5年以下の懲役または100万円以下の罰金になるというから、なかなか厳しい法律である。

続けて、町が虚偽の工事完成日を報告したことについて、担当者は「仮に日付を偽った虚偽の報告となると、補助金の返還を求める可能性がある」と指摘。さらに悪質性があるかどうかを精査したうえで、その結果によって「全額返還の場合もあるし、一部返還の場合もある」との見解を示した。

厚労省の担当者がここまで言うのであれば、程度の差はあれ、補助金の返還は免れないということである。そうなると、今回の虚偽報告について、専門家にも意見を求めなくてはならない。

そこで私は、2016年に起きた町の新庁舎建設をめぐる町長リコールの際に、取材でお世話になった鳥取大学の藤田安一名誉教授(公共政策学)に電話をした。かつて鳥取市でも新庁舎建設への反対運動が起きたことがあり、藤田氏は積極的に運動に参加するなど、オピニオンリーダーとして活動した経験があった。

国庫補助金の不正請求についてコメントした藤田安一・鳥取大学名誉教授の記事(2021年11月12日付)

5年ぶりに電話をした私の取材に、藤田氏は快く応じてくれたが、そのコメントは極めて厳しいものだった。

「国の補助金を受給するには、工事が完成したことを文書で示す必要があるが、今回はそのルールに反していただけでなく、工事が終わっていない事実を把握したあとも、国や県に報告しなかったことが問題だ。

地方自治体の首長として、屋久島町長の責任は極めて重い。

屋久島町では様々な不祥事が続いているが、これは行政による責任感の欠如が招いた結果だといえる。住民から負託を受けて、住民のために行う仕事なのに、自分たちの内輪だけで解決すればいいという体質が町にあるのではないか。また、町政を監視するはずの町議会も全く機能していない。

それゆえに、ずっと以前から続く負の遺産があって、それを反省する機会を持たなかったために、今の状態になっているのだろう。

こんなことを続けていれば、世界自然遺産としての屋久島の名を汚してしまうのではないか。それを許している住民にも責任があるといえる」

ここまで強く言っていいのかと、こちらが驚くほど、藤田氏の言葉は辛辣だった。それは5年前の町長リコールのときも同じで、強引に新庁舎計画を進める町長に対し「反対を許さない独裁的なやり方だ」と批判していた。

屋久島町役場の新庁舎建設問題について意見を述べる藤田安一・鳥取大学教授(当時)の朝日新聞記事(2016年8月7日付)※著作権保護のため記事本文にモザイク加工をしています

ブログで発信した記事1本の船出だったが、屋久島町による補助金不正請求は「事件」となって動き始めた。そして私は、国や県の見解、藤田氏のコメントなどをまとめて、創刊の翌日から続報を打ち続けた。
 
国への虚偽報告が明らかになった一方で、荒木町長はじっと沈黙を続けた。こういった事件が市町村で起きた場合、通常は記者会見を開いて、首長が謝罪と事情説明をするものだが、町長が公式なコメントを発することはなかった。

そして、初報から18日が過ぎた11月26日。ようやく、荒木町長ら幹部が町議会の全員協議会に出席して、今回の補助金不正請求について説明することになった。屋久島ポストとしては、自分たちの取材で初めて明るみになった事件である。鹿島さんと私は満を持して議場の傍聴席に陣取り、テレビ各局のカメラマンと肩を並べるようにビデオカメラを構え、全員協議会が始まるのを待った。

屋久島町議会の本会議場

ところが、午前10時の開会を目前に、議会事務局長がつかつかと私のところに近寄ってきて、いきなりこう伝えてきた。

「議長が撮影取材は許可しないと言っています」

嫌な予感はしていたが、やはりそうきたかと思った。町長の側近中の側近である石田尾茂樹議長が、これ以上の取材を町議会ではさせまいと、私たちの取材を妨害してきたのだ。

4章 報道砂漠⑫につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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