取材記『離島記者』

6章 住民訴訟①『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

屋久島で取材を始めて約10年。町政をめぐって数多くの問題を報道してきたが、どれも町長や町議会の思いどおりに幕引きされ、すべてがうやむやのままに終わってきた。

町ぐるみともいえる出張旅費不正精算事件では、町役場や町議会だけでなく、監査委員までもが詳細な調査をせず、虚偽の領収書が発行された経緯は不明なままだ。

国への虚偽報告で補助金1668万円を返還した補助金不正請求事件では、補助金の返還命令を受けた法的責任について町は、工期内に工事が完成できなかった業者のせいだと責任を転嫁した。

国会議員や知人社長らに高額な贈答を続けた町長交際費問題では、1件で10万円分の贈答をしても、町長は「社会通念上妥当と認められる額」だと言い張っている。

まだまだ他にもあるが、いくら事実を報道しても、町が説明責任を果たし、襟を正すことはない。報道をきっかけに一部の町議が問題にしても、町長を支持する多数派の町議に押し切られてしまう。

市民メディアの限界を感じるが、これが大きな権力をもった屋久島町役場の現実である。それでは私たち住民は、この無責任な行政機関を黙って認めないといけないのか。

屋久島町役場

そんなとき、最後の手段として頼りになるのが「住民訴訟」だ。地方自治体などにおける財務会計上の行為について、住民が自分たちの公費を守るために提起できる訴訟である。

その自治体の住民であれば誰でも提訴でき、住民が勝訴すれば、首長や職員が損害賠償を請求される。ただし、訴訟に勝ったとしても、住民が個人的に利益を得ることがない公益訴訟で、自治体の不正や腐敗を防ぐための裁判である。

市民メディアで報道する私たちとしては、司法の力に頼ることなく、言論活動だけで町を改善したいと考えている。しかし、現実は厳しい。私たちの報道を受けてマスコミが報じたとしても、町役場はいっとき反省したそぶりを見せるだけだ。

だが、屋久島町の住民は黙ってはいなかった。そんな状況を打ち破ろうと、住民訴訟で町に立ち向かう動きが出てきたのだ。

補助金返還の責任を問う

最初に立ち上がったのは、水道工事をめぐる補助金不正請求が発覚した際に、議会で町を追及した元町議の小脇清保さんだ。荒木耕治町長の旅費着服疑惑を初めて指摘し、約200万円を町などに返還させるなど、公費を守る活動を続けてきた住民有志である。

出張旅費の着服疑惑をめぐり、小脇清保町議(手前)の質問に対して答弁する荒木耕治町長(中央)。左は岩川浩一副町長=2019年12月10日、屋久島町議会

2022年3月、国が町に補助金など約1668万円の返還を命じたのは、工事が未完成の段階で、町が「すべての工事が完成した」と虚偽の報告をしたからだ。だが町は、工事を完成できなかった業者の責任だと主張し、返還した全額を複数の業者に賠償請求。それに対し、一部の業者から「事前に工事が未完成だと伝えていたのに、それでも完成検査をやった町の責任だ」と抗議の声が出ていた。

屋久島町が開示した水道工事の検査調書。実際には工事が未完成なのに、すべての工事が終了したと虚偽の内容が記載されている ※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストが、それぞれ加工しています

それを受けて、前年9月に80歳で町議を引退した小脇さんは、住民訴訟で町の責任を追及する決意をした。適正な工事管理を怠った町が、その責任を業者に転嫁しているのが許せなかったからだ。

しかし、大きな難題があった。弁護士に代理人を頼めば、着手金だけで数十万円かかり、もし勝訴したとしても、自分に賠償金が入るわけではないので、成功報酬も自腹になる。それではと、本人訴訟で裁判に臨むにしても、法律文書を書いた経験はない。

そこで、小脇さんは知人のつてを辿って、手弁当で支援してくれる本人訴訟の経験者や弁護士らを紹介してもらった。訴状や準備書面を起案する際は、住民訴訟の記録を公開している住民団体のウェブサイトを参考にしながら、支援者の協力で作成することにした。

屋久島ポストの報道がきっかけで提訴される住民訴訟である。町の一住民として、私たちも原告に名前を連ねたい心境だったが、報道する立場としては、取材対象の当事者にはなれなかった。

ただ一方で、取材者であると当時に、私たちは屋久島町の住民でもある。町の公費をめぐる不正を追及する思いは、訴訟の原告を買って出た小脇さんと同じで、できる限りの手伝いをしたかった。

何か協力できないか。私たちは熟慮を重ね、情報公開請求で入手した公文書の共有と、屋久島ポストで配信した記事の提供であれば、一住民でもある取材者として、許される範囲の支援だと考えた。

補助金不正請求に関係する記録文書は、町の情報公開条例に従って、誰でも手に入れられる「公共の文書」だ。請求の目的を町に伝える必要もないため、多くの住民が自由に利用しても問題はない。

屋久島町の情報公開制度で開示された口永良部島の水道工事関連の公文書と町の封筒

また、屋久島ポストが配信した記事も、誰もが自由に読める。新聞記事が裁判に証拠提出されるのは普通にあることで、私たちの記事を印刷して、住民訴訟の証拠にしてもらっても、何も支障はない。

徐々に準備が進められ、まず小脇さんは2022年5月、訴訟を提起する前提要件となる住民監査請求をした。国から約1668万円の返還命令を受けたのは、荒木町長や日高豊副町長ら幹部3人の責任だとして、その全額を損害賠償することを町に求める内容だった。それに対し、町の監査委員は7月に請求を退けた。

国庫補助金の不正請求事件について、屋久島町監査委員事務局に住民監査請求の文書を提出する小脇清保さん(中央)=2022年5月9日、屋久島町役場の議会棟

これで準備が整った。小脇さんは8月1日、訴状と証拠一式を鹿児島地裁に郵送し、屋久島町を相手取った住民訴訟を提起した。国に返還した約1668万円が町の損害になっているとして、その全額を荒木町長ら幹部3人に賠償請求するよう町に求めたのだ。

鹿児島地方裁判所

訴状によると、水道工事を担当した生活環境課の課長は、実績報告書の提出期限だった2021年3月末の時点で、一部の工事が未完成であったにもかかわらず、「すべての工事が終わった」とする虚偽の報告書を国に提出。荒木町長と日高副町長は4月14日、虚偽報告の事実を把握したが、国に伝えないまま約7カ月間にわたって放置し隠蔽した。その結果、町は国から補助金の返還命令を受け、加算金を含めて約1668万円を返還し、町の財政に損害を与えた。

6章 住民訴訟②につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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