1章 町長の嘘②『離島記者』

それまでの取材で、町長が航空券の払い戻しを繰り返していることは明らかだった。それにもかかわらず、シルバー割引の利用を完全否定するとは……。それも3度も。このままでは、いずれ虚偽答弁の事実が明らかになり、大きな問題になることは間違いなかった。
ところが、追い打ちをかけるように、もっとまずい事態になった。荒木町長が鹿児島県の地元紙「南日本新聞」の取材に対しても、シルバー割引の利用を完全否定してしまったのだ。
翌12月11日、南日本新聞は<町長が「旅費着服」指摘><航空券払い戻し 割安券で出張か>との見出しで、荒木町長が追及された一般質問について報道した。記事には、「屋久島空港ではプライベートでも普通運賃券をシルバー割引に切り替えたことはない」という町長のコメントが掲載された。

荒木耕治町長は二世首長だ。父親の健次郎氏(故人)は、旧2町が合併する前の旧上屋久町で町長を務めていたが、町が発注した公共工事をめぐる贈収賄事件で失脚。その後に息子の耕治氏が地盤を引き継ぎ、まずは上屋久町議選をめざした。
民間企業や町役場での勤務経験がない耕治氏だったが、1995年の町議選で初当選し、約12年にわたって上屋久町議を務めた。その後、屋久島町になって2回目となった2011年の町長選に61歳で初当選。2019年10月には3選を果たし、大多数の町議を町長派に取り込んで、「荒木一強」の盤石な体制を築き上げていた。
それゆえ、町長を支持する町議たちは、自分たちの「親分」に降りかかった疑惑の火消しに躍起となった。
定例会最終日の12月17日には、一般質問でシルバー割引の利用を指摘した小脇町議が、旅費着服疑惑を調べる調査特別委員会(百条委員会)の設置を求める決議案を提出した。町議会が主体となり、荒木町長に対して徹底的な不正調査を実施するべきだと訴えたのだ。
百条委員会とは、地方自治体で不正や不祥事があった際に、地方自治法100条に基づいて地方議会が設置する特別委員会のことだ。強い調査権が認められており、関係者を出頭させて証言を求めたり、記録文書の提出を要求したりすることができる。
この百条委設置案に対し、町長派の町議たちは必死に抵抗した。
その急先鋒に立ったのは、女性で初めて屋久島町議会の議員になった岩山鶴美町議だった。自分が選挙で選ばれた住民の代表であるにもかかわらず、町長の着服疑惑を証言した住民に対して「氏名を公表すべきだ」「議会で証言できるのか」などと主張。住民を「議会でさらし者にするぞ」と脅さんばかりの発言を連発したうえで、住民の証言には「信憑性がない」と断じた。
そのほか多数の町議が町長を擁護して、採決では反対10人、賛成4人で否決となり、百条委員会での調査は跳ねのけられた。

自分に忠実な「子分」たちに守られ、これで逃げ切れると思ったのか。閉会後の取材に応じた荒木町長は強気だった。私が「搭乗記録について、JALと協議すると答弁していたが、どうするのか?」と尋ねると、荒木町長は平然と突っぱねてきた。
「今のような根拠がはっきりしないものに対して、私は対応するつもりはない」
つい1週間前の町議会で、「会社と協議したいと思います。JALの会社です」と答弁していたのに、どういうことなのか。これでは議会での約束を反故にしたことになり、この町の住民でもある私としては納得がいかなかった。
それは他の記者も同じで、次々と「本当にシルバー割引を利用したことはないのか?」と迫った。だが、荒木町長は食い下がる記者たちを引きずるように歩き、何も明確に答えないまま、最後は無言で町長室に消えていった。

それまでの屋久島町であれば、これで荒木町長は「無罪放免」だった。
その当時、南日本新聞は町内に記者1人を常駐させていたが、本格的な取材経験がない期限つきの嘱託記者で、行政監視の取材をすることはなかった。また、私が行政取材をしても、県内では1万数千部しか読まれていない朝日新聞に掲載されるだけなので、発行部数が約26万部もある南日本新聞のような影響力はなかった。
ところが、この旅費着服問題の取材は大きく違った。南日本新聞が本社から記者2人を派遣して、精力的に取材を続けていたのだ。一緒に協力して取材するわけではないが、私が入手したものと同じ関係文書を南日本新聞も手に入れていたようで、私としては、荒木町長を追及する「同志」が増えたような気分だった。
そして、年の瀬も押し迫った12月24日、その南日本新聞が「屋久島町長旅費着服疑惑」の特ダネ記事を放った。

一面トップで<航空券20回払い戻し>の大見出しを掲げ、荒木町長がシルバー割引を利用して、普通運賃との差額を着服している疑いがあると報道。さらに、法律の専門家が「詐欺罪など刑事責任を問われる可能性がある」などと指摘していることも報じた。
その一方で、荒木町長は南日本新聞の取材に対し、「弁護士と相談している」と述べるに留まり、シルバー割引の利用は認めなかった。
同じ取材をしている私としては、地元紙に特ダネを抜かれた格好で、本来であれば悔しがるところだった。
だが、なぜか妙に嬉しかった。
県内では圧倒的な発行部数を誇る南日本新聞が一面トップで報じたことで、事態が大きく動くことを期待したのだ。
(1章 町長の嘘③につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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