5章 負の連鎖⑦『離島記者』

「立て込む公務」を理由に、なかなか取材の約束が取れなかった日高副町長だが、朝一番で町役場に押しかけて、なんとか数十分だけ話を聴くことができた。

愛子岳の美しい山嶺を望む副町長室で机に向かっていた日高副町長に、鹿島さんと私が「一連の高額な贈答について、どう思うか?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「社会通念は屋久島と都会では感覚が違うかもしれない」
1回に10万円もする贈答は、東京や大阪などの都会では認められないが、屋久島であれば、社会通念上はあり得るということのようだ。だが、都会に比べて購買力が低い屋久島で、それほど高額な贈答を普通にできる人がどれほどいるだろうか。
屋久島町で暮らす住民として、どうしても納得できなかった。そこで、町長交際費の支出に責任をもつ副町長として、本当にその認識でいいのかを再確認したところ、日高副町長はこう開き直った。
「そこは、そう(高額な贈答だと)思われれば、そうなんでしょう」
長年にわたって町議を務めた経験がある日高副町長なのに、住民の気持ちなど「我関せず」といった発言で、とても無責任な姿勢だと感じた。そして、支出の決裁について話がおよぶと、副町長は決裁権者としての責任を放棄するかのような説明をした。
「交際費というのは、支出の決裁を伝票上は私がしますが、どう(相手先と)お付き合いするかは、基本的には町長の裁量だと思う」
続けて、自身の決裁責任については「そこを私が踏み込んで、どうなんですかと(意見をするべきと)は思わない」というのだ。
この説明だと、そもそも日高副町長には決裁する気はなく、荒木町長から求められるままに決裁印を押していたということだ。
その一方、今後の贈答のあり方について、日高副町長は「今回、いろいろと問題提起があったので、もう1回(贈答の方法を精査して)見る必要があるのかなと思う」として、贈答の金額や頻度などをあらためる可能性を示唆したが、これまでの贈答は「町長の裁量を超えてはいない」と主張。それに対し、私は「1回に10万円の贈答は、納税者として納得できない」と訴えたが、副町長は「町長の裁量」と言うばかりだった。

次に質問したのは、新たな過疎法が制定される際に、国会議員のお陰で屋久島町が法律の対象になれたとする議会答弁についてだ。本来、立法行為は平等公平なものであり、高額な贈答で「信頼関係を築いた」とする国会議員の手助けで、屋久島町だけが有利な扱いを受けることは許されないはずである。
そこで、どのような経緯で町が過疎法の対象地域になれたのか、日高副町長に詳細な説明を求めたところ、呆れる答えが返ってきた。
「過疎法制定の経緯はよくわからない」
「そういう話があるらしいと町長から聞いたが、町長が具体的にどんなことをしたのかは知らない」
交際費の支出を決裁している副町長なのに、なんとも無責任な説明だった。自分自身の議会答弁で、高額な贈答を続ける理由の一つとして、国会議員の尽力で町が過疎法の対象になれたと説明したのであれば、その事実関係を詳細に確認すべきである。
また、そもそも日高副町長が過疎法についての理解が乏しかったことも、この取材でわかった。過疎法は国会議員の主体的な発議で制定される議員立法である。だが、日高副町長は過疎法が議員立法であることを把握しておらず、自民党の過疎対策特別委員会が過疎法の制定に深く関わっていることも、全く知らなかった。
荒木町長が続ける贈答の成果として、町が過疎法の対象地域になったことを挙げた日高副町長だったが、まさか過疎法が議員立法であることを知らなかったとは……。それでも副町長は、「(贈答の)結果というか、何らかの信頼関係が(過疎法の対象地域に町が選ばれた理由に)あるのではないかということで(議会で)伝えさせてもらった」として、国会議員に対する贈答の意義を力説した。

交際費使用伺いの文書に、贈答の理由が書かれていないことも問題だった。国会議員の氏名も黒塗りされており、これでは何の目的で贈り物をしたのか、さっぱりわからなかった。
そこで、日高副町長に問いただすと、こんな見解を示した。
「一般的な贈答と感覚的に似ていると私は思っている」
この発言に私は驚いた。感覚的に「一般的な贈答」で、日高副町長は数万円から10万円の贈り物をしているということである。そして、それが当然であるかのごとく、日高副町長はこう続けた。
「何か具体的にこうしてほしいという話ではなく、おつき合いの範囲(の贈答)であると思う」
単なる「おつき合い」で、これほど高額な贈答をする人がいるとは思えなかった。だが、これまでの贈答について、荒木町長は「妥当」だと主張。それを決裁する日高副町長も「町長裁量の範囲内」というが、私には2人の金銭感覚が異常だとしか思えなかった。

視点を変えて、森山議員らが「町長個人からの贈答」だと認識している点についても尋ねてみたが、またしても日高副町長からは無責任な答えが返ってきた。
「屋久島町として(公費で)贈っているので、(認識の違いは)受け取った側の問題だ。(町長と)関係が近い分、そう(私費で贈っていると)受け取ったのかもしれない」
日ごろから世話になっているという国会議員が、贈答費の出所について大きな誤解をしているのに、「受け取った側の問題だ」と突き放し、まるで他人事だった。公人中の公人である国会議員にとって、自身への贈答が有権者の公費によるものなのか否かはとても重要であり、日高副町長にはその問題意識が完全に欠如していた。

そして、最後はこう言って、私たちの取材に対する回答を結んだ。
「町長に私からこうした方がいいですよと、申し上げることはない」
副町長というのは、町長とともに町役場の両輪となって、住民の暮らしを守るために町政運営をする要職だ。しかし、日高副町長の口からは、その重責を自覚する言葉は一つも聞こえてこなかった。

取材後、このインタビュー記事を配信すると、読者からは怒りを通り越して、呆れにも近いコメントが寄せられた。
「日高副町長は本気でこんな発言をしているのでしょうか? 屋久島町が過疎地域から外されそうになったとか? 贈り物をした見返りに、有利に働いてもらおうと本気で考えて発言されているのであれば、町は日ごろから賄賂を用いて、国や県にお願いごとをし、成立させているのでしょうか? それはいわゆる『賄賂』です」
「日高副町長は、(中略)堂々と贈賄の話をしているようですね。このような人材を選んだ町長を含めて、屋久島町行政および町長、副町長の責任は重大ですね。今後、このような方々が町政に関わること自体、今後の屋久島の将来をつぶすことになりそうです」
読者のコメントに目を通していると、我が町のトップ2人が住民の思いを顧みず、身勝手な町政運営をしているとしか思えなかった。
ところで、当初の取材で「反省」していた荒木町長が、なぜ町議会では一転して、一連の高額贈答を「妥当」だと言い切ったのか。
その理由は、町長の議会答弁を考える「指南役」にある。
荒木町長は町議会の一般質問で難しい問題に迫られると、町の法律顧問を務める河野通孝・法務事務専門員に相談して、議会答弁の文案をつくってもらっているのだ。情報公開請求で手に入れた相談記録を見ると、河野専門員が作成した文案が、そのまま町長の議会答弁になっているケースがたくさんある。

今回の町長交際費についても、荒木町長は「誰にどのような支出をするのかについては、相当程度、町の機関として、町を代表して交際する町長等の裁量的判断に任されている」などと主張したが、その内容は議会前に河野専門員が提案したものだ。それゆえ、当初は「反省」した荒木町長の言葉は消え去り、町長の裁量権を前面に押し出して、「妥当な贈答」という答弁になったのである。
町長交際費の要綱にあるとおり、荒木町長が「社会通念上妥当と認められる額」と判断すれば、1回に100万円でも200万円でも、どれだけ高額な贈答をしても問題はないということだ。さらに荒木町長は、今後も同様の贈答を続けるということである。
この答弁を聞いて、私はがっかりした。もし、当初の取材と同じように、町議会でも「私の政治は情の部分が多かったかもしれないと反省している」と住民の感情に寄り添う発言をしていれば、これほど多くの批判を浴びることはなかったであろう。
でも仕方がない。私たちは、それからも高額贈答の取材を続けるしかなかった。
(5章 負の連鎖⑧につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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