5章 負の連鎖⑭『離島記者』

研修が終わると、議会内では数少ない「野党議員」の一人である渡辺千護町議が立ち上がり、岩山町議の事件について質問した。
「今(岩山町議)本人が来ているので、(略式起訴が)本当なのかどうか確認させてほしい」
それに対し、石田尾議長は「昨日、本人に確認したところ、本人には何も通知が来ていないので、ここで議題にすることはできない」と、質問を認めなかった。
続いて真辺真紀町議が、岩山町議に対して問いただした。
「通知が来たら、当然に説明責任を果たさなければいけないという認識はあるのか?」
ところが、岩山町議は口を開くことなく、代わりに石田尾議長が意味不明の答えをした。
「通知の内容がどういうものなのか、私は答えられない」
岩山町議への質問なのに、なぜ議長が答えたのか、全く理解できなかった。それでも石田尾議長は「本人の個人的な問題もあり、法的にどうなのかというのもある」として、この日の研修で学んだ基本に従って、「十分に検討して対応したい」と話を結んだ。

このやり取りを聞いた私は、岩山町議に降りかかる火の粉を、石田尾議長が必死に振り払おうとしているように感じた。住民に対する説明責任の認識について、岩山町議が質問されているのに、どうして石田尾議長が「私は答えられない」と言うのか。こんな苦し紛れで、見当違いの発言を聞くうちに、石田尾議長が率先して、不法行為の事実を隠そうとしているように思えてきた。
結局、全員協議会を傍聴しても、新たな事実は何もわからなかった。そうなると、私たちが岩山町議に直当たりするしかない。

閉会後、私は会場の最後列に座っていた岩山町議に声をかけた。
「直接、検察官から(略式起訴について)聞いていませんか?」
すると、岩山町議は「私には連絡も入っていません」と返してきた。だが、「聞いていませんか?」という問いに「連絡も入っていません」と答え、質問をはぐらかしているのは明らかだった。
そこで再度、「直接、聞いていませんか?」と質問すると、今度は「聞いていません」と否定してきた。それならばと、次はもっと具体的に問いただした。
「検察官から直接、略式起訴について説明はありませんでしたか?」
しかし、岩山町議は「ないです」と言い張って否定してきた。
告発した住民に対し、担当の検察官が「略式起訴した」と明確に説明している以上、岩山町議の言葉を信じることはできなかった。なぜなら、もし略式起訴に同意していなければ、岩山町議は起訴されることになり、公開の裁判が開かれるからだ。

その一方で、岩山町議は「その人の名前は私には教えてもらえないんですか?」と、誰が自分を告発したのかを知りたがった。当然だが、私は「それは無理です」と断ったうえで、重ねて尋ねた。
「直接、検察官と話をしていませんか?」
しかし、またしても岩山町議は「全く何もありません」と完全に否定した。
そんなはずは絶対にないので、私は「全くないですか?」と再確認したが、それでも岩山町議は「ありません」という。そこまで否定されれば、最後はこう問うしかなかった。
「略式起訴に、ご自分で同意されたことはないですか?」
しかし、やはり岩山町議は「いや、ないですね」と頑なに否定して、つけ入る隙を全く見せなかった。
検察官と話したことはない。略式起訴に同意もしていない。この二つは、さすがに嘘だと思ったが、それ以上の質問をしたところで、否定を繰り返されるだけだった。
このときばかりは、石田尾議長に守られた岩山町議が「難攻不落」に思えた。だが、焦ることはない。いずれ必ず罰金命令は出る。私は自分にそう言い聞かせて、鹿島さんと一緒に町役場をあとにした。

それから半月後の8月16日夜、私たちが情報を提供したマスコミの記者から連絡が入った。いよいよ来たか、と意気込んで電話に出ると、ようやく屋久島簡裁が略式命令を出したという報告だった。
そして、最も気になる罰金の額は「50万円」だという。
記者クラブの「特権」がない屋久島ポストにとって、この報告はとてもありがたかった。そのお陰で、マスコミ各社のあとを追う格好にはなったが、私たちは翌8月17日早朝に<岩山町議に罰金50万円の略式命令>の見出しで速報を配信できた。

マスコミの報道が出たことで、その次は屋久島町議会の対応に注目が集まった。半月前の研修で指導されたとおり、町議の有罪が確定したことを受けて、議長声明を出したり、議員辞職勧告決議を検討したりする必要があるからだ。
だが、町議会が積極的に動くことはなかった。8月18日に議会運営委員会が開かれたが、その席で石田尾議長は、議会としては何も対応しない方針を明らかにした。一方、岩山町議から申し出があり、8月28日の全員協議会で本人から説明を受けることになった。
委員の町議からは、「研修に従って、議長声明を出すなどの対応について、次の全員協議会で提案するのか」と質問が出された。だが、石田尾議長は「本人から(事件の)経緯や経過の説明を聞く以外は考えていない」と回答。議員が不祥事を起こした場合の対応として、研修で指導された議長声明や議員辞職勧告決議などについては、「議会として検討するつもりはない」とした。
この事件が発覚してから、石田尾議長は一貫して岩山町議を擁護し続けてきた。だが、この議会運営委員会の記事を配信すると、その独善的な議会運営に対し、読者から非難の声が寄せられた。
「開かれた議会とは真逆の上から目線の議会運営は目にあまるものがあります。(中略)町長と議長に近い数名の議員を守るために、議長権限を振りまわしているのが手に取るようにわかります。これを『議会の私物化』と言わずして、何をかいわんやです」
「何ですか、この石田尾議長の発言は! この人は、議長の職務がわかっていません。ただ、前任者がやっていたことを踏襲するだけで、町民目線に立った議会運営に努めようという気概が感じられません」
石田尾議長による「議会の私物化」は、屋久島町議会の取材を10年近く続ける私の目にも明らかだった。だが、荒木町長を支持する多数派の町議に守られ、最終的には多数決ですべてを決めてしまうため、議会内の異論は一つ残らず排除されてしまうのだ。
(5章 負の連鎖⑮につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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