取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑧『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

ここまで読んで、あまりの責任の重さに、調査報道をするのが怖くなってきたが、今さらやめるわけにもいかなかった。そこで、さらに<公開情報は力の源泉である>との見出しに続く一文を読み、調査報道における情報公開請求の重要性を実感した。

<公開情報を入手することで、誰かに話をしてくれるように頼むよりも、相手に話を確認してくれるように頼むため、より有利な立場にいることができる。「何が起こったのですか」と尋ねることと、「これが起こったことですよね」と確認することは、大きな違いがある>

思い返せば、虚偽の領収書による不正精算の取材は、まさにこの文章と同じ状況だった。

情報公開請求で開示された領収書の航空券代が「7万2220円」だったのに対し、関係者から入手した販売記録の代金が「2万6110円」だったので、私は副町長に「実費とは4万6110円の差額があるが、その理由を説明してほしい」と質問できた。だが、もし仮にどちらかの文書が手に入らなければ、そもそも差額が出ていることもわからないので、いくら不正疑惑があっても、副町長に否定されて終わりだった。

岩川浩一副町長が不正精算に使った虚偽の領収書。実際に購入した金額は2万6110円だった
出張旅費の不正精算が発覚したことを受けて、岩川浩一副町長が差額を返還した際に作成した精算書。7万2220円としていた航空運賃を2万6110円に修正した

10年ぶりに温めた旧交が与えてくれた「情報公開請求の取材手法」と『調査報道 実践マニュアル』。元同僚の助言に感謝しつつ、この二つは私たちの調査報道を支える屋台骨になると確信した。
 
徐々に準備が整ってきたが、もう一つ大切な課題が残っていた。もし可能であれば、屋久島ポストの創刊に合わせて、何か特ダネ記事を打ちたいと考えていたのだ。

そこで活躍してくれたのは、鹿島さんら島民記者たちだった。

「町の職員が水増しした領収書の不正精算を自己申告したらしい」
「町長が公務出張で航空券の特典マイルを私的に貯めているようだ」

私のような「よそ者」の移住者では、とても築くことができない町内の人脈を活かし、次々と耳よりの情報を取ってくるのだ。その多くは事実関係の確認が難しいものだったが、なかには不正の疑いが高いと思われる内部告発もあった。

その一つが、町内にある火山島で、屋久島の西方12キロに浮かぶ口永良部島で実施された水道工事に関する情報だった。

屋久島の西に浮かぶ口永良部島。国から不正受給した補助金で水道工事が実施されていた=Wikimedia Commons より

鹿島さんが話を聞いた工事関係者によると、年度末の2021年3月で完成するべきだった工事が、新年度の8月に入っても終わっていないという。この工事は国の補助事業で、年度末の工期を超えると補助金がもらえないはずだった。ところが町は、約1億1000万円の補助金を受け取ったうえ、工事が未完成だったにもかかわらず、業者に工事代金を前払いしたというのだ。

これが事実であれば、町は2020年度末で「すべての工事が完成した」とする虚偽の実績報告書を国に提出して、補助金を受け取ったことになる。さらに、工事を終えていない業者に前払いまでしていたとなれば、複数の違法行為が疑われる可能性があった。

この虚偽報告疑惑は、2021年8月に開かれた町議会定例会の産業厚生常任委員会でも取り上げられた。まず委員の一人で、その1年半前に町長の旅費着服を指摘した小脇清保町議が切り出した。

「口永良部島の水道工事について、業者の間で、工期の年度内に工事が終わっていないという話が出ています」

それに対し、担当の生活環境課長は「(国の)補助事業なので(年度内に)終わっています」としながらも、「その話はちょっとわからないので、また確認させていただきたい」と答弁。だが、会期内に結果を報告することなく、そのまま事実関係をうやむやにしていた。

そこで、ここからが調査報道となる。

まずは9月半ば、全部で九つある工区のうち、最も工事が遅れたとされる第5工区に関する工事記録などを町に情報公開請求した。さらに、島民記者が第5工区を担当した業者の社長を訪ねたところ、工事が終わったのは「8月のお盆過ぎだった」と、あっさり認めた。

この証言によって、町が国に虚偽報告をしていた疑いが高まった。あとは町が開示する工事の記録文書と照らし合わせ、社長の証言と町の工事記録に食い違いがあれば、町の担当課に取材ができる。

今すぐにでも、町役場に駆けつけたかったが、思いどおりにはいかない。情報公開請求をしても、すぐに目的の文書が出てくるわけではなく、屋久島町では通常1カ月ほどの日数がかかるからだ。

工事の記録文書が開示されるまでの間、私は鹿島さんらと今後の取材方針を検討した。まずは町役場を取材するとしても、そのあとをどうするのか。すると、島民記者の一人が「工事を担当した町の職員を知っているので、直接取材をしてみましょうか」という。

正直、これには驚いた。まさか、不正疑惑のある担当職員にまで、個人的な人脈があるとは思ってもいなかったからだ。

新聞取材の経験があるからといって、もし私がひとりでこの問題を抱えていたら、すぐに疑惑の張本人に辿り着くのは不可能だ。仮に誰かに紹介してもらったとしても、相手が警戒してしまい、そう簡単には会ってもらえないだろう。

そして、待ちに待った工事の記録文書は、2021年10月27日に開示された。

工事を担当した生活環境課の窓口に出向いた鹿島さんたちは、淡い緑色をした屋久島町役場の封筒を受け取った。封筒の表には、誇らしげに<世界自然遺産の島 やくしま>と印字されており、そのなかには72枚の記録文書が入っていた。

屋久島町の情報公開制度で開示された口永良部島の水道工事関連の公文書と町の封筒 ※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストがそれぞれ加工

町が国に虚偽報告をしたことを裏づける事実が、この封筒のなかに入っているかもしれない。はやる気持ちを抑えて、鹿島さんが文書をまとめて引っ張り出すと、第5工区の工事請負契約書や工事現場の写真などがあり、工事が完成したことを証明する<検査調書>に、決定的な事実が記載されていた。

<※下記工事について、令和3年3月19日完成したので、通知します>

<下記のとおり、検査を終了しました。令和3年3月26日>

そして、町の担当職員が工事を確認した結果を記す<検査所見>の欄には、こう書かれていた。

<契約図書に基づき良好に施工されている。(合格)>

4章 報道砂漠⑨につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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