7章 逆風のなかで①『離島記者』

私たち「屋久島ポスト」は、強く屋久島町議会に訴えてきた。
「マスコミ各社の記者と同じように、議会の様子を撮影し、町幹部と町議のやり取りを録音させてほしい」と。
だが、石田尾茂樹議長を筆頭にして、町長を支持する多数派の町議たちは頑なに拒んできた。

その理由は何か?
屋久島ポストが日本新聞協会など、マスコミ各社が加盟する大きな団体に所属していないからだ。しかし、屋久島町議会の傍聴規則には、そんな取り決めはない。<特に議長の許可を得た場合>は、誰でも撮影と録音ができると定められている。
それでも排除されるので、私たちは役場内に設置された議会中継用のモニター画面をビデオで撮影して、町議会の取材をしてきた。だが、それは本会議だけで、常任委員会や議会運営委員会、全員協議会は中継されないため、全く取材することができない。

これは「報道の自由」を保障した憲法21条に反する状況だが、屋久島町議会の取材に関しては、石田尾議長の判断が「鉄則」となる。しかし、そんな恣意的な議会運営を認めるわけにはいかなかった。私たちは2021年12月、フリーランスの記者らにも取材を認めるように求めて、町議会の傍聴規則を見直すように要請した。
だが、石田尾議長の腰は重かった。傍聴規則の協議を始めたのは、3月定例会の運営について協議する翌2022年2月の議会運営委員会からだった。しかも、見直しのたたき台として示されたのは、「日本新聞協会などの加盟社に限定」とする案だけだった。
この決定には驚いた。屋久島町議会は「開かれた議会」を目標に掲げており、それに沿うかたちで私たちは、フリーの記者にも取材を認めるように求めていた。これでは時代に逆行してしまい、目標とは正反対の「閉ざされた議会」になってしまうではないか。
ところが、この議会運営委員会にはもう一つ、「自由に撮影と録音を許可」する案が示されることになっていたことが、議会関係者への取材でわかった。委員会の事前協議で、石田尾議長が取材の自由を認める案に反対し、一方的に排除していたというのだ。
一般住民も含めて自由に撮影と録音を認める案は、北海道の白老町議会などの先進例を参考にしたという。
白老町議会の傍聴規則は2007年に施行され、その8条で<写真、ビデオ撮影及び録音等の自由>を規定。そのうえで<議長は、傍聴席における写真、ビデオ等の撮影及び録音(以下「撮影等」という。)について、議事の進行の妨げとなっていると認めたとき、又は他の傍聴人に迷惑を及ぼしていると認めたときは、撮影等の方法の変更を求めることができ、これに従わない場合は、撮影等を禁止することができる>と定めている。

屋久島ポストとしては、白老町議会のように誰でも自由に取材できる案を望んでいただけに、石田尾議長の反対には憤りを感じた。だが、複数の町議から「議会のインターネット配信を検討しているなかで、撮影と録音を制限するのはおかしい」といった意見が出されたため、3月定例会での傍聴規則の見直しは先延ばしになった。
それを受けて、いよいよ6月定例会になれば、私たちも取材できるようになるかもしれないと期待した。そして定例会の開会を前に、5月24日には議会運営委員会が開かれ、傍聴規則の「取扱要綱」について協議されたのだが、まさかの結果が待っていた。
委員の町議6人で採決したところ、「自由に撮影と録音を許可」する案に賛成したのは1人だけだった。その他の5人は、「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者▽議長が認める者」に限定する案を支持したというのだ。
地方議会のネット中継が一般的になっているなかで、にわかに信じがたい決定だが、それが屋久島町議会だった。
それでは、「自由に撮影と録音を許可」する案に反対した町議たちは、どんな発言をしたのか。

榎光徳町議は、一般傍聴者が撮影をすると、その写真や動画を使って「誹謗中傷につながる」と危惧。一方、「日本新聞協会などは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規定がある」として、マスコミだけに取材を許可する案に賛成した。

緒方健太町議は、多くの傍聴者に撮影され、「その映像を使って誹謗中傷されるかもしれない」と指摘。傍聴席での携帯電話の音や、ひそひそ話がたくさんあるため、「屋久島町の最高機関として、規律をつくりながら段階的に方向性を決めていくべきだ」と主張した。

中馬慎一郎町議は、6月から始まる議会の動画配信の状況を見て、傍聴規則は「段階的に検討すればいい」と主張。一方、自由な撮影については「携帯電話の音で妨げてほしくない」として、当面は「一定のモラルがあるマスコミ」に限定すべきだとした。
この3人の発言をまとめると、フリーの記者も含めた住民は「モラルがない」ため、自由に撮影をさせると「誹謗中傷につながる」ということだ。これでは、独立系のネットメディアも含めて、マスコミに属さないフリーの記者らは「信用できないので、取材させない」と、「屋久島町の最高機関」に烙印を押されたようなものである。

その一方、ただ1人だけ「自由に撮影と録音を許可」する案に賛成した真辺真紀町議は、今の時代にマスコミだけに取材許可を限定するのは「非常に時代錯誤で恥ずかしい」と指摘。「一般も報道も区別する必要はない」として、名誉毀損や肖像権侵害などの問題があれば、「そのときに対処すればいい」と主張した。
もっともな意見だが、多数決で決まった以上は、なす術がなかった。定例会直前の6月7日にも議会運営委員会があり、フリーの記者らを排除する傍聴規則の取扱要綱案は固まることになっていた。
ところが、いざ委員会が始まると、ありがたい助け船が現れた。前回の採決で唯一、「自由に撮影と録音を許可」する案に賛成した真辺町議が声を上げ、こう主張したのだ。
「町民から強く指摘され、憲法や地方自治法などを踏まえた法的な検討をするべきだと考えています」
真辺町議によると、傍聴規則の判断基準となる要綱で、マスコミだけに許可することを定めると、「知る権利」や「報道の自由」を保障した憲法21条に違反する可能性があるという。もし憲法に抵触すると、法令に反する規則の制定を禁止する地方自治法15条にも反することになるので、真辺町議は「法的に深い議論をしないまま、傍聴規則の判断基準を要綱で定めてはいけない」と言った。

この指摘を受けて、委員長の日高好作町議は「一般傍聴は許可しているので、知る権利を阻害しているとは思わない」と反論した。それに対し真辺町議は、委員会の協議では要綱案が法令に違反しているか否かを精査していないと主張し、「多数決で決まっても、法令違反は許されない」と訴えた。
結果的に真辺町議の主張が認められ、要綱案の決定は延期された。
一度は決まった要綱案を覆す議論になったが、石田尾議長は「真辺委員の言うことは、よくわかる。(判断基準は)傍聴規則ではなく、要綱で定めたが、法律上それが正しいのかどうかを調べたい」と述べ、法律の専門家に意見を求めることを明らかにした。
閉会後、石田尾議長は屋久島ポストの取材に応じ、要綱案は「決定事項だと思っている」と説明。マスコミ以外の取材を許可しない要綱案に固執する姿勢を見せたが、「法的な根拠について確認する必要がある」として、6月定例会での適用は延期するとした。
ところが、この議会運営委員会を最後に、傍聴規則の見直しに関する協議は途絶えた。石田尾議長が法律の専門家に意見を求めたのかどうかは不明だが、憲法21条との関係で、フリーの記者らを一方的に排除する要綱を定めるのは難しいのだろう。
だが、それでも屋久島ポストは、議会から排除され続けた。
(7章 逆風のなかで②につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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