取材記『離島記者』

5章 負の連鎖②『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

そこで、町長交際費を支出する際のルールを確認するため、町のウェブサイトにある例規集を見てみた。

すると、<屋久島町長の交際費の支出基準及び情報の公表に関する要綱>があり、この要綱の趣旨を定めた1条には、次のように書かれていた。

<この要綱は、町行政の円滑な運営と透明性を確保するため、町長が、町を代表して行う外部の個人又は団体との交際に要する経費(以下「交際費」という。)の支出基準及び情報の公表に関し、必要な事項を定めるものとする>

なるほど、町長が交際費を支出する目的は、<町行政の円滑な運営>のためということだ。それでは、誰に対して交際費を使うことができるのか。支出先を規定した2条には、このようにあった。

<交際費の支出先となる個人又は団体は、次のとおりとする。
(1)屋久島町の事務事業と直接かつ密接な関係にあるもの
(2)屋久島町町政の伸展に功績があったもの
(3)災害、事故等にあったもの
(4)町長が特に必要と認めたもの>

国会議員については、町と<密接な関係にあるもの>か<町政の伸展に功績があったもの>にあたりそうだ。だが、最後の規定に<町長が特に必要と認めたもの>とあるので、荒木町長が望みさえすれば、誰にでも交際費を使えることになる。

「屋久島町長の交際費の支出基準及び情報の公表に関する要綱」の第1条と2条

そして、最も知りたい支出基準を定めた3条には、支出区分として次の7項目が挙げられていた。

<祝金><会費><弔慰><見舞><贈答><協賛金><その他>

さらに、区分ごとに金額等という規定があり、<祝金><会費><見舞>は1万円以内、<弔慰>は2万円以内となっていた。

ところが<贈答><協賛金>については、このように記載され、支出できる上限額が明確に決められていないことがわかった。

<社会通念上妥当と認められる額>

こうなると、いくら住民が「高額な贈答だ」と主張しても、金額が「社会通念」という曖昧な概念で決められているため、議論にならない可能性があった。人が思う社会通念は様々であり、1件で10万円の贈答をしても、荒木町長が「妥当と認められる額」と言えば、それが屋久島町の「社会通念」になってしまうことになる。

金額に加えて、各区分の内容も定められており、<贈答>については、<町政運営上必要な訪問時の土産及び贈答に係る経費>とある。町長が公務で訪問した際に渡す手土産か、町政運営で世話になった団体や個人への贈り物であれば、交際費を使えるということになる。

「屋久島町長の交際費の支出基準及び情報の公表に関する要綱」の第3条

また、交際費に関する情報公開のルールも決められており、4条に<交際費の情報の公表は、交際費執行状況を町が開設する公式ホームページに掲載する方法により行うものとする>とある。さらに、2項を見ると<前項の規定にかかわらず、屋久島町情報公開条例(平成19年屋久島町条例第18号)第7条各号に掲げる情報については公表しないものとする>とされている。

それでは、情報公開条例の7条とは、どんな内容なのか。同じ例規集で探してみると、<実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない>とある。さらに、それに続く2号の規定を見ると、非開示にできる情報の一つとして<個人に関する情報>が挙げられていた。

おそらく町は、贈答記録で黒塗りした国会議員らの氏名が、この条例で規定された<個人に関する情報>にあたるとして、非開示にしたようだった。

町長交際費に関するルールがわかったところで、町の総務課に取材して、国会議員らに贈答した理由などを確認することにした。すると、担当職員は「町政にご尽力をいただいている方々に贈っている」と答え、主な理由は「町産品のPR」だという。それに対し、私は「せめて国会議員の氏名を教えてほしい」と求めたが、案の定、職員は「個人情報なので教えられない」と回答を拒んだ。

しかし、公費で贈答した国会議員の氏名が「個人情報」と説明されて、納得する住民はいないだろう。日々の議員活動で町政に尽力したことに対する感謝の贈答であれば、むしろ議員名を広く知らせるべきであり、その氏名を真っ黒に塗りつぶす方が失礼な話である。

また、贈答先の肩書にある<内閣官房長官>や<内閣総理大臣>については、黒塗りにしたところで、それが誰かはすぐにわかる。荒木町長が贈答した2019年6月当時の官房長官と、2020年9月と12月当時の総理大臣は、いずれも菅義偉氏である。日本政府のトップに対して、屋久島町民から感謝の意を込めて贈答しているのであれば、氏名を隠す理由は何もないはずだ。

【左】荒木耕治町長が「内閣総理大臣」や「衆議院議員」らに贈答した記録文書 ※一部にモザイク加工をしています【右】記者会見する菅義偉首相(当時)=2021年8月23日、内閣官房内閣広報室/Wikimedia Commons より

だが、総務課の職員は条例を盾にして、国会議員であっても「個人情報なので開示できない」と主張するばかりだった。それに対し私たちは、鹿児島市や福岡市など他の自治体では、国会議員などの公人だけでなく、一般人への贈答でも氏名を公開していると伝えたが、それでも全く相手にされなかった。

こうなると私たちとしては、国会議員らの氏名を黒塗りにした町の判断に対し、異議を申し立てなくてはならない。その方法を職員に尋ねると、行政不服審査法に基づいて設置される情報公開・個人情報保護審査会に不服申し立てをして、法律の専門家らによる審査を受ける必要があるという。

えらい面倒なことになるが、黒塗りの裏に隠された国会議員の氏名を知るためには、やるしかなかった。鹿島さんと私は、贈答先の個人名をウェブサイトで公開している自治体の例を複数示すなどして、国会議員らの氏名を黒塗りした屋久島町の対応が不当だとする不服申し立てをした。

5章 負の連鎖③につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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