5章 負の連鎖⑬『離島記者』

その約1年半前、地検に告発した際には、不法焼却は捜査が終わっているが、不法投棄は捜査をしていないということで、告発状が受理されていた。それにもかかわらず、どうして不法焼却の罪で略式起訴したのか、その理由がわからなかった。いずれにしろ、司法記者クラブに所属していない私たちは、検察官に理由を尋ねられず、略式起訴したかどうかを確認することもできなかった。
そうなると、すべての事実を知る岩山町議に確認するしかない。
住民から電話を受けたあと、すぐに私たちは岩山町議の携帯と自宅の両方に電話をしたが、何度かけても応答はなかった。それではと、携帯電話で「略式起訴のことで取材をお願いします。ご返信をお待ちしています」とメールを送ったが、やはり返信はなかった。

町議本人に確認できれば、地検で裏が取れなくても、安心して記事が配信できるのだが、これではどうしようもなかった。もちろん、告発した住民からの情報なので、それだけでも十分なのだが、できれば二重の確認がしたいところだった。
だが、仕方がなかった。私は住民に電話をして、検察官が説明した内容を再確認しようとした。すると、地検からかかってきた電話の会話を住民が録音していたことがわかった。すぐに音声ファイルをメールで送ってもらい再生すると、確かに検察官は言っていた。
「本日付で、告発された不法投棄は、起訴猶予の不起訴処分にしました。ただし、不法焼却には略式起訴という処分を下しました」
略式起訴になった事実に間違いはなかった。そして、すぐに私たちは速報を配信。さらに翌7月22日にも詳細な記事を掲載して、文末に次の一文を入れた。
<略式起訴を受けて、屋久島ポストは岩山町議に電話とメールで取材を申し入れたが、7月22日午後2時までに返信はなく、検察での事情聴取の内容などはわかっていない>
報道する以上は、岩山町議に直接取材するのが原則だ。だが、ずっと連絡が取れなければ、略式起訴された事実を報じられないため、町議本人に取材を試みた事実を記事で示すしかなかった。

ところが、記事を配信した1時間後に、岩山町議から携帯電話にメールが届き、「廃棄物処理法違反については、私のところには何の連絡もないのでコメントできない」と伝えてきた。さらに「どこの誰からの情報なのか教えてほしい」「私が連絡をもらっていないのに、取材に応じていないと書くのは誤解を招くのでやめてほしい」との要求もあった。
「どこの誰からの情報なのか」と質問されても、記事には「告発した住民によると」と書いて、しっかり情報源は示していた。また、「私が連絡をもらっていないのに」と言われても、私たちは電話とメールで何度も連絡を入れており、それは記事にも書いていた。
そこで、再び私は岩山町議に電話をして説明しようとした。だが、何度かけても応答はなく、直接取材はできなかった。
略式起訴のあとは、屋久島簡裁に関係書類が送られ、最終的に裁判官が罰金命令を出すことになる。ただし、それがいつになるのかわからない。私たちは簡裁を所管する鹿児島地裁に電話を入れて、罰金命令が出た段階で、取材に応じてもらえるように依頼した。
だが地検と同じく、地裁からも「司法記者クラブ加盟社の取材しか受けられない」と断られてしまった。そうなると、その先の取材が一切できなくなる可能性が高まった。

原則として、略式起訴の事件は報道発表されないため、マスコミ各社が個別取材をしなければ、ニュースとして流れることはない。現場を目撃した住民も、告発人として地検からは情報がもらえる一方、地裁からの説明は受けられなかった。さらには罰金命令が出されても、岩山町議が取材に応じるとも思えなかった。
つまり、マスコミが報道しない限り、岩山町議による不法投棄焼却事件の結末は、誰にも知られないまま終わるということである。
私たち市民メディアにとって、これは大きな誤算だった。現場や住民の取材を踏まえて、略式起訴までの報道はできた。だが、その先は司法記者クラブの壁に阻まれてしまい、最後の最後で取材が一切できなくなるのだ。
ここまで追い詰められたら、マスコミの力に頼るしかなかった。
私たちは告発した住民の了承を得たうえで、複数のマスコミの記者に対し、この事件の情報を伝えた。すると、そのなかの数人から連絡があり、地裁に取材をしたところ、罰金命令が出た段階で個別の取材には応じてもらえるとのことで、私たちは少し安心した。
この事件について、それまで取材を一切してこなかった記者たちに情報提供するのは、正直なところ悔しかった。だが、このまま罰金命令の結果が記事にならなければ、それまで積み上げてきた屋久島ポストの報道はなかったも同然となる。また、町議本人が自ら記者会見などで報告しなければ、岩山町議は自分が有罪になった事実を公言しないまま、町議会の自席に座り続けることになる。
そんな最悪の事態を避けるためには、マスコミとの連携は必要不可欠だった。
いつ出るのかわからない罰金命令の知らせを待ちつつ、私たちは独自の取材を続けた。略式起訴の事実が判明した11日後の8月1日には、町議会の全員協議会が開かれたため、鹿島さんと私は町役場の議会棟を訪ね、撮影と録音はせずに一般住民として傍聴した。

この日の全員協議会は、「自治体議員のコンプライアンスとは」と題する研修だった。岩山町議の略式起訴が決まった直後で、町議会を束ねる石田尾議長としては、なんとも間の悪いタイミングだった。
研修会では、政治倫理に詳しい専門家が提供する映像教材が流され、まずは「有権者から負託を受けた議員は、住民の期待や信頼を裏切ってはいけない」「不祥事があった場合は全住民への説明責任を負う」と指導があった。さらに「議員は『選ばれた良き人』と見られる立場」「違法かどうかではなく、人から見てどうかを考える」など、住民の代表として求められる心構えが伝えられた。

会場には岩山町議の姿もあったが、こんな講話を聞かされたら、心穏やかではいられなかったに違いない。自身の不法行為で、住民の期待や信頼を失っているのに、「全住民への説明責任を負う」どころか、市民メディアの取材にすら応じていないのだから、「選ばれた良き人」とは正反対の町議である。
(5章 負の連鎖⑭につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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