5章 負の連鎖⑥『離島記者』

国会議員ほど多くはないが、荒木町長は鹿児島県の知事や副知事にも贈り物を続けていた。過去5年間で、計18件の贈答に約11万円を支出し、焼酎や季節の果物を贈答。そのなかには、すでに退任した元知事の伊藤祐一郎氏への贈答もあったが、果たして県庁はこれらの贈答について知っているのだろうか。

県庁にメールで取材すると、担当の秘書課は贈答の事実を把握しておらず、現職の塩田康一知事らに確認してもらうことにした。その後、やや日数は要したが、担当職員から電話で回答があった。
「今回の取材で、知事と副知事は初めて(町長からの贈答に)公費が支出されているということを認識しました。地元の焼酎やパッションフルーツ、ポンカンなど季節の果物があり、知事と副知事は地元特産品のPRにご協力いただきたいとの(町長の)気持ちから贈られてきたものと思っていました」
さらに、「贈答は県庁ではなく、自宅に届いており、知事と副知事は屋久島町長の私費による個人的な贈答と認識していた」という。
この回答を踏まえると、2人の国会議員に続いて、鹿児島県知事までもが「町長個人からの贈答」だと思っていたということである。こうなると、いくら荒木町長が公費による贈答は「妥当」だと強弁しても、「はい、そうですか」と認めるわけにはいかなかった。

国会議員や県知事らに対する取材の結果を報じると、屋久島ポストのコメント欄には、読者から不満の声が続々と届いた。
「なぜ国会議員に、こんなに贈答品を贈らなければいけないのでしょうか。荒木町長が個人的に贈るなら構いませんが、なぜ、町民のお金で信じられない金額の贈答品を贈る必要があるのでしょう」
「屋久島に家族で移住して10年。イセエビやアサヒガニなんて、食べたことありません。10年間に納めた税金で、どれだけ食べられたことか。それが、1年で7500万円ものお金をもらっている森山議員に、私たちの税金から贈られていたのですね。森山議員に伝えてください。我が家は毎日、特売日に100グラム40円で買った鶏ムネ肉で献立を考えて、子どもたちをお腹いっぱいにしています。屋久島町民は、森山議員に高級な鮮魚を贈れません。高価な焼酎も贈れません。私たちの税金を返してください」
「おいしい焼酎があるよね、と言われても、話題として言っているだけですよ。なぜ私たちの血税で、そんな品物を贈る必要があるのですか。森山議員はこの選挙区で当選させてもらったのですから、屋久島町のために必死で働いて当然です。こんなに贅沢な品物を贈りたいのなら、ご自身のポケットマネーでやってください」

まだまだ、たくさんのコメントが寄せられたが、その多くは、国民のために働く責務がある国会議員に対し、どうして高額な贈答をしなくてはいけないのか、という疑問の声だった。また、そのなかには、日ごろから「予算不足」を理由にまともな行政サービスを受けられない住民の嘆きもあった。
「屋久島町では、学校の遊具が壊れても『予算がない』と修繕してもらえず、長い間にわたって壊れたまま放置されています。図書費も少なく、本も自由に購入してもらえません。町は子どもたちのためにさえ、予算が組めないくらい困窮しています。森山議員の贈答に使った50万円を含め、全贈答額の370万円を屋久島町の子どもたちのために使えるようにしてください」
住民がこんなに怒っていると知った私たちは、町長交際費の支出を決裁している日高豊副町長を取材することにした。

一連の贈答について、日高副町長は町議会で「町が大きな問題に直面したときには大きな効果を発揮する」と説明。新たな過疎法が制定される際に、当初は対象から外れる予定だった屋久島町が、国会議員の尽力によって対象地域となり、多額の過疎対策事業債(過疎債)を起債して「町民の利益になった」と主張していた。
過疎法は、人口減少が進む地方自治体を国が財政面で支援することを目的に1970年に施行された。既存の法律では対処できない緊急事態などに対応するために制定される特別措置法(特措法)の一つで、要件や対象地域などが10年ごとに見直されている。
人口の減少率と財政状況を踏まえ、その要件を満たした自治体は、道路などの整備から産業振興まで幅広く使える過疎債を発行できる。いわゆる町の「借金」にあたるのだが、その7割の金額を国が交付税措置で負担するため、自治体は過疎債で計上した予算の3割を支出すればいいことになる。
日高副町長の議会答弁によると、屋久島町が2021年度に起債した過疎債は8億円だったという。そのうちの5億6000万円を国が支出し、自己負担が2億4000万円となれば、財政難に苦しむ町にとっては、とてもありがたい借金である。
だが、国の法律なのに、その対象地域に選ばれる過程で、どうして国会議員に頼らなくてはならないのか。
実はこの過疎法は国会議員が発議する「議員立法」で制定される法律で、要件や対象地域は国会議員によって協議される。自民党には過疎対策特別委員会が設けられ、同党に所属する国会議員が法案の内容を検討することになる。

それが理由なのか。日高副町長は町議会で、こうも答弁していた。
「過疎法の改正にあたって、当初、屋久島町は過疎地域から外れるという情報もあった」
「そういう情報をいち早くキャッチして、それに対して、どう対処していくのかというのは、町の大きな問題解決のためには、必要なことではないかと思う」
つまり、過疎法の対象から屋久島町が外れそうだという情報を得て、それを懇意にしている自民党の国会議員に働きかけて、対象地域に指定してもらったということである。
だが、そもそも国民にとって平等公平であるはずの立法行為において、贈答で親しくなった国会議員の手助けで、屋久島町だけが有利な扱いを受けていいのだろうか。それも多い時は、1回に36本の高級焼酎を10万円で贈答して。
(5章 負の連鎖⑦につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
【ご感想・メッセージ】
取材記『離島記者』に関するご感想やメッセージなどは、以下のフォームよりお寄せください。→ https://forms.gle/393iKVFjZ8X5Smzg8
