1章 町長の嘘④『離島記者』

おそらく、荒木町長は「着服する意図はなかった」と主張したかったのだろう。だが、それではなぜ、何度も問われたシルバー割引の利用を頑なに否定し続けたのか。ただ単に使わなかった旅費を返し忘れたのであれば、そもそも悪気がないわけで、素直に認めて差額を返還すれば済む話である。
私と同じ疑問を抱いたのか、記者たちの質問はその点に集中した。
記者「差額の返還を怠ったということだが、もともと返す必要があると感じていたのか?」
荒木町長「正直に申し上げて、当時は(返還が必要だと)理解をしていなかった」
記者「何度も利用していて、常習性もあったと思うが、悪いことをしていると思わなかったのか?」
荒木町長「正直、精算することまで考えがおよんでいなかった」

やはり、荒木町長は「悪気はなかった」と主張したいようだが、それではどうして、町議会でシルバー割引の利用を3度も完全否定したのか。さらには新聞取材に対して、なぜ「プライベートでも普通運賃券をシルバー割引に切り替えたことはない」と断言したのか。
その点についても、記者の質問は続いた。
記者「先の議会では、百条委員会の設置を求める動きもあり、きちんと説明する場が何度もあった。(説明が)この場になった理由は?」
荒木町長「最初に身に覚えのない200万円の贈収賄事件(について)の質問だったので、私も少し、だいぶ感情的になっていて、冷静な対応ができず、深く反省している」
どうやら「冷静さを欠いた」と言い訳したいようだが、現金授受の疑惑については、その時点で私も直接取材をしており、町長は明確に否定していた。いきなり町議会で指摘された問題でもないのに、「感情的になった」と言われても、にわかには信じられなかった。

それゆえ、多くの記者はこの説明を疑った。
記者「結果的に隠していたと思われても仕方がないと思うが、(説明が)きょうになった理由についてどう感じているか?」
荒木町長「こういう事態になって、本当にすまないと思っている」
いったい町長は、何を言っているのか。不正を隠していたのに、「本当にすまない」で許される話ではない。
ついには、虚偽答弁を疑う質問も飛び出した。
記者「議会で虚偽答弁をしたことを認めるか?」
荒木町長「身に覚えのないことを言われて、その次の質問だったので、自分も冷静さを欠いて、少し感情的になっていた」
記者「虚偽答弁をしたということでいいか?」
荒木町長「そう捉えられても、仕方がないと思っている」

いくら荒木町長の説明を聞いても、私の疑問は解消されなかった。悪気が全くないのであれば、町議会で少し感情的になったからといって、あそこまで否定を続ける必要はないはずだ。
続いて、最も気になる着服額の合計については、調査をしている最中で、まだ総額はわからないという。ただ、少なくとも40回は普通運賃の航空券を払い戻していることが取材で判明しており、1回で3万円前後の差額があったとすると、合計で100万円を超えることは間違いなかった。
その差額の使い道にも、記者の質問はおよんだ。
記者「差額は何に使ったのか?」
荒木町長「電車で行くところをタクシーで行ったり、お茶を飲んだり、そういうことに使った」
記者「使途について、他にどう使ったのか?」
荒木町長「特別にそれで、大きな物を買った記憶はない。通常の自分の生活のなかで、使ったぐらいだと思っている」
もし差額が100万円だとしたら、「タクシー」と「お茶」だけで使い切るには無理があると感じた。タクシーなら相当な頻度や距離で乗車を繰り返す必要があり、コーヒーや紅茶なら優に1000杯は飲むことができる。

会見の終盤になると、住民の公費に対する荒木町長の認識について、記者が疑問を投げかける場面もあった。
記者「払い戻しをする際に(差額を)ポケットに入れて飲食代に使ったというが、それは税金が基になっている。そのときに罪悪感はなかったのか?」
荒木町長「正直なところ、当時はシルバー割引の理解がなかった。返さなければいけない(理解)というのがなかったので、そういう(罪悪感の)気持ちはなかった」
記者「それは首長として、その認識がないのは非常に杜撰だと思うが、どう考えるか?」
荒木町長「正直言って、精算しなければいけないというのが、そういう理解をしていなかったのが原因だと思う」
要するに、町の職員から航空券を受け取った段階で、その航空運賃の全額は自分のものであり、それから先に差額が生じたとしても、すべて自由に使えると勘違いしていたということだ。だが、予算不足に悩む町の財政について、荒木町長はよく知っている。それにもかかわらず、東京に1回出張して、往復で約6万円もの差額が出ていたのに、それを住民のために使おうと思わない感覚であれば、町長の資質がないと言わざるを得なかった。
最後は、町長としての進退に質問がおよんだ。
記者「今後、町民への信頼回復については、どのように考えるか?」
荒木町長「それは仕事を一生懸命やっていくことだと思っている」
記者「信頼回復に向けて仕事を一生懸命にやっていく、というのは続投宣言だ。金額が確定した段階で、どのような状況になったら、別の責任の取り方をするのか?」
荒木町長「それは(金額が)出た時点で、また考える。そこまでは一生懸命に仕事をやる」
記者「どうなれば、辞めるケースもあると考えているのか?」
荒木町長「それは、私自身が決断することだと思っている」

着服した金額が確定するまでは「仕事を一生懸命にやっていく」。最終的には「私自身が決断する」。
この発言を聞いた私は、民意がどうであれ、荒木町長に辞職するつもりは微塵もないと思った。
さらに私は、荒木町長が手元に置いた文書にずっと目を落としたまま、同じ言いまわしで質問に答える姿に違和感をもった。おそらく弁護士が考えた作文なのだろう。差額の着服は「意図的」ではなく、「悪気」もなかったとして、町長は逃げ切る算段なのだと感じた。
(1章 町長の嘘⑤につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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