1章 町長の嘘⑦『離島記者』

副町長は虚偽領収書で不正精算
この臨時議会が終わったのちに、荒木町長と岩川議長は詐欺などの容疑で住民団体から刑事告発された。だが、屋久島町の幹部による旅費着服問題は、これだけでは終わらなかった。
もしかすると、この他にも着服している幹部がいるのではないか?
そう推察した私は、町長以外の幹部についても、過去5年間の出張旅費の精算書や領収書を情報公開請求で手に入れ、関係文書との照合を続けた。すると、今度はシルバー割引ではなく、虚偽の領収書で不正精算した疑いのある幹部が複数いることがわかったのだ。

情報公開請求とは、地方自治体などが保有する行政文書の情報を一般住民が知ることができるようにする制度だ。屋久島町では町のウェブサイトで公開された「公文書開示請求書」に必要事項を記入して提出すれば、文書1枚10円の手数料で、誰でも自由に町役場が保有する行政文書を手に入れられる。
この情報公開請求で、新たに不正が発覚した幹部の一人は、なんと荒木町長を最も身近で支える岩川浩一副町長だった。
岩川副町長は2017年4月に名古屋市などへ3泊4日で出張した際に、鹿児島と名古屋の往復航空券代として、7万2220円を受け取っていた。旅費精算で町に提出した領収書には「鹿児島~名古屋航空券代」の但し書きで、「¥72220―」と記載されていた。
だが、私が関係者から入手していた文書と照らし合わせると、実際の販売額は2万6110円で、領収書の金額より4万6110円も安かったのだ。

領収書は文房具メーカーが市販しているもので、よく見ると、右上にある通し番号が空欄のままだった。さらに領収金額が5万円以上なのに、法的に義務づけられた収入印紙もなかった。かつては町の総務課長も務めた副町長なので、まさかとは思ったが、領収書に虚偽の内容が記載されている可能性は捨て切れないと感じた。
そこで、2020年2月20日に町役場の副町長室を訪ね、本人から直に事情を聴くことにした。部屋に入れてもらった私は、通し番号と収入印紙のない領収書を示し、岩川副町長に疑問をぶつけた。
「この領収書の金額と実際の販売額に4万6110円の差額があるのですが、なぜですか?」
すると、岩川副町長はやや震えた声で、こう説明した。
「これは領収書と書いてありますが、どうも見積もりの段階で出された領収書のようで……」

この釈明を聴いて、私は耳を疑った。現金を支払ってもいないのに、ただ見積もりをしただけで、領収書が発行されるわけがない。私は何かの間違いだと思い、再び確認するように質問した。
「見積もりだけで領収書が出たということですか?」
それに対し岩川副町長は、はっきりと言い切った。
「そうです。見積書ということです」
その説明のとおりだとすると、「見積もりの領収書」ということになるが、一般社会のなかで、そんな領収書が存在するはずはない。そこで、さらに詳細に事情を聴くと、岩川副町長は次のような趣旨の説明をした。
まず初めに出張旅費の仮払いを受けた際に、旅行会社で鹿児島と名古屋の往復航空券代の見積もりをしてもらった。ところが、その後に私的な用事で東京の親族を訪ねることになり、公務出張中に空路で鹿児島から東京へ行ったのちに、東京から新幹線で名古屋へ向かった。そして、出張旅費の精算をする段階で、何かの手違いで、見積もり段階で発行された領収書が旅費精算書に添付された。

つまり、公務出張の間に私的な旅行をして、実際の旅程や金額とは全く違う内容で出張旅費の精算をしたということだ。さらには、公文書である旅費精算書に虚偽の内容を記載したことになり、公務員としては違法行為を疑われる事態だった。
その点を指摘すると、岩川副町長は私的な旅行で使った交通費や宿泊費などについて、全額を返還する意思を示した。だが、なぜ見積もり段階で領収書が発行されたのか、その経緯を確認しても、「それは旅行会社に尋ねてほしい」と言うばかりだった。
さらに、岩川副町長にはもう一つ、旅費の不正精算があった。2015年4月に東京へ2泊3日で出張した際に、航空券代とホテル代がセットになった「ホテルパック」を利用していたにもかかわらず、全額を航空券代として精算していた。そのうえで、別途に2泊分の宿泊費2万1800円も受け取り、ホテル代を二重取りしていたのだ。
岩川副町長が提出した領収書を見ると、但し書きに「チケット代として」とあり、金額は「¥66000」と書かれていた。今回は通し番号と収入印紙もあり、虚偽の記載はないと思われたが、またしても事実とは違う内容で旅費精算がなされていた。

この不正精算についても、岩川副町長は「事務的なミスが重なり、結果的に宿泊費の二重取りになった」と釈明し、余分に受け取った2泊分のホテル代を町に返還すると言った。
町長に続き、副町長も出張旅費の不正精算をしていたとは驚きだった。だが、さらに驚愕したのは、町議会の幹部2人までもが虚偽の領収書を使って旅費を着服していたことだ。
まず一人は、シルバー割引で旅費を着服していた元議長の岩川俊広町議だ。2019年5月に議長として東京へ出張した際に、屋久島と東京の往復航空券代として「¥93980―」と記載された領収書を提出していた。だが、実際に使った交通費は高速船代も含めて4万7100円で、約2倍の旅費を受け取っていた。

この不正が発覚した当初、岩川町議は私の取材に対して「予約した際に旅行会社が発行した領収書を添付した」と釈明。領収書を受け取ったのちに割引航空券を購入したが、そのまま「予約の領収書」で精算したと説明していた。
だが取材を続けると、旅行会社には岩川町議に航空券を販売した記録がないことが判明した。旅行会社は現金を受け取っていないにもかかわらず、領収書だけを発行していたのだ。そこで、あらためて本人に取材をすると、「予約の領収書」を受け取った経緯について、岩川町議は「今(シルバー割引の件で)刑事告発を受けているので、説明できない。すべて警察で話す」と回答を拒んだ。

もう一人は、岩川俊広町議が議長を辞任したのちに、議長職を引き継いだ岩川修司町議だった。2018年と2019年の5月に副議長として東京へ出張した際に、2回とも屋久島と東京の往復航空券代として「¥93980―」と記載された領収書を提出していた。だが、実際の航空券代はいずれも半額以下で、実費よりも計約11万円を余分に受け取っていた。

当時の議長と副議長が、2人揃って虚偽の領収書で不正精算をしていたとなれば、屋久島町議会としては由々しき問題である。
そこで、私は岩川修司町議から直に事情を聴くつもりで準備をしていた。だが、本人が2020年2月半ばに突如として議員を辞職したため、領収書を受け取った経緯を確認することはできなかった。表向きの理由は「体調不良」とされたが、辞職後は公の場に姿を見せることはなく、事実上の引責辞職だとみられた。
(1章 町長の嘘⑧につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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