取材記『離島記者』

4章 報道砂漠⑤『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

かつて、私も新聞社に身を置いたことがあるので、それは十分に理解できた。すでに旬が過ぎた話題をいくら取材しても、その日の記事ラインナップを決める編集会議で相手にされることはなく、没になるどころか、原稿に目を通してもらうこともできなかった。

また、現場の記者にしてみれば、古くなったネタを追い続けても、上司からの評価は下がるばかりだ。「まだ、やり残したことがある」と、後ろ髪を引かれることもあるが、自分の原稿が記事にならないことが続けば、いずれは記者職から外される心配もある。

だが、屋久島町で暮らす私たち住民にとっては、この事件は終わっていなかった。旬が過ぎたどころか、今後も多くの虚偽領収書が見つかる可能性があり、まだまだ続報が期待できる問題だった。

それにもかかわらず、ここで報道の波が止まってしまったら、町役場が自ら調査に乗り出すことは期待できなかった。このままでは虚偽領収書の問題はうやむやのまま放置され、やがては完全に忘れ去られるのは間違いなかった。

その現実に直面して、私は自分たちが暮らす町が「報道砂漠」になりつつあると感じた。

英語では「NEWS DESERTS」などと表現され、地方紙の廃刊が相次ぐ米国でよく言われており、地域社会で行政監視などをする記者がいなくなることを意味する

米カルフォルニア州のベル市では2003年に地元紙の支局が閉鎖され、誰からも取材を受けなくなった隙に、町幹部の給与が10倍に増額されたことがある。年収は80万ドル(1億2400万円)で、米大統領の2倍。そして、「口止め」のために警察署長や市議会議員の給与も上げていたことが2010年に発覚し、全米を揺るがす大事件に発展する事態となった。

まさに、屋久島町も同じ状況に陥る恐れがあった。

荒木町長の旅費着服問題では、地元紙が先頭を切って報道したことで、町長が着服を認めて謝罪し、被害額の約200万円を返還した。だが、地元紙であっても部数減に苦しんでおり、ニュースの旬が過ぎた問題を取材し続ける余裕はない。その結果、住民有志が1万6000枚もの記録文書から拾い上げた調査結果でも、しっかりと報道はしてもらえないということである。

荒木耕治町長の出張旅費着服について、大きく報じる南日本新聞の記事 ※著作権保護のために記事本文にモザイク加工をしています
荒木耕治町長の出張旅費着服について大きく報じる南日本新聞の記事(2019年12月末掲載)※著作権保護のため記事本文にモザイク加工をしています

これ以上、マスコミの報道に頼れないとなれば、住民が自分たちの力で調査結果を町にぶつけるしかない。そう思い直した鹿島さんは、要調査となった165件の出張記録を証拠として束ねて、真辺町議に託すことにした。近く開会する3月定例会の一般質問で、荒木町長ら町幹部に対して、虚偽の領収書などを対象にした不正調査の実施を求めるためだ。

住民団体による出張旅費不正調査の結果を踏まえて、荒木耕治町長(前例左端)と町監査委員に特別監査の実施を求める真辺真紀町議(前列右)=2021年3月10日、屋久島町議会

2021年3月10日、一般質問に立った真辺町議は、調査報告書に添付された領収書を示しながら、町長や監査委員に強く迫った。

「今回、住民団体が3カ月もかけて、過去6年分の出張記録を調べ上げ、さらに不正の疑いがある領収書が見つかった」

「このまま町も議会も調査をしないとなると、監査委員が独自に調査するべきではないか」

しかし、荒木町長の任期と同じ10年にわたり、町の監査を続ける朝倉富美雄代表監査委員の答弁は歯切れが悪かった。

「書類を見て、これはおかしいと思わないものは、調査する必要はないと考えている」

出張旅費不正精算の監査について答弁する朝倉富美雄・代表監査委員(前列右)。前列左は荒木耕治町長=2021年3月10日、屋久島町議会

それに対し真辺町議は、調査した住民団体と協力し、領収書を発行した旅行会社に依頼して、「この(領収書の)金額で航空券を発券したのかどうか、照会をかけたところ、元会計課長の不正精算が判明した」と、具体的な調査方法を説明。それを踏まえ、航空券を購入したすべての旅行会社に協力を求め、領収書と販売記録の照会をするべきだと主張した。

最終的に朝倉代表監査委員は、すべての旅行会社に対する照会について「そこまでやるかどうかは監査委員の判断になる」としながらも、独自の監査を実施する方針を示した。

また荒木町長も、退職者を含めたすべての職員と町議に対する監査の指示を検討すると答弁。真辺町議から「いつまでに検討するのか」と念を押されると、「3月中には決めたい」と述べた。

出張旅費不正精算の監査について答弁する荒木耕治町長=2021年3月10日、屋久島町議会

報道のあと押しはなかったが、一部の町議と住民有志が協力することで、それまで腰の重かった荒木町長と監査委員が動くきっかけをつくることができた。早ければ、4月中にも監査が始まり、虚偽の領収書が発行された経緯が詳細にわかるかもしれない

取材者としてではなく、屋久島町の一住民として不正調査に協力した私は、それまでにはない新境地に立っていた。

新聞の取材であれば、鹿島さんをはじめ住民有志のメンバーとは距離を置く必要があるが、新聞記者でなくなってしまえば、一緒に活動することができる。さらには、取材対象の当事者にはならないという報道の原則に触れるかもしれないが、よりよい社会をつくるために、直接的に自分の力を発揮することもできる。

住民なのか、それとも記者なのか。そんな疑問を抱きながら、ずっと屋久島で取材を続けてきたが、もう悩む必要はなさそうだ。

「離島記者」――。

小さな離島で暮らす住民であり、地域社会の問題を取材する記者でもある。私の立場をひと言で表すなら、こんな呼び方がいいかもしれないと思った。
 

さて、住民の注目が集まる虚偽領収書の監査だったが、新年度に入っても一向に始まる気配はなく、5月末まで待っても動きはなかった。そこで、真辺町議は6月定例会の一般質問で、「町長から依頼のあった分を監査するということだが、何割ぐらい進んでいるのか」と問いただした。

ところが、またしても朝倉代表監査委員の答弁は歯切れが悪く、「今、調査中なので詳細は控えさせていただく」と言うだけだった。監査の実施を約束した3月定例会からは3カ月が過ぎており、せめて進捗状況だけでも説明すべきところだ。だが、朝倉代表監査委員は私たち住民の期待に応えることはなかった。

そんな状況のなかで、約1年半にわたって町幹部らによる旅費不正を追及してきた鹿島さんは、強い危機感を募らせていた。私たち記者らに対する刑事告発などの影響で、当初は一緒に活動していた住民たちが次々と離れていたからだ。いつか自分も事件に巻き込まれるかもしれない。そう不安に思う住民もいて、「清く正しい屋久島町を創る会」のメンバーは両手で数えるほどにまで減ってしまった。

「着服町長は辞任せよ。」と書かれた横断幕を掲げ、荒木耕治町長(右から2人目)に辞職を迫る住民たち=2020年1月10日、屋久島町役場の議会棟

その一方で、刑事告発や民事提訴などの反撃を乗り切った私は、住民有志と協力した虚偽領収書の調査で成果を上げたこともあり、少しずつ本来のペースを取り戻していた。

だが、それまで契約していたテレビと新聞での取材は難しかった。

KKB鹿児島放送については、私が告発される以前から、町議会の議長らが私の取材に関する「意見交換の面談」と称して本社を訪問。KKBの幹部が「圧力」を感じていたため、私は契約を打ち切らざるを得なかった。また、告発騒動に巻き込んでしまった朝日新聞社からは、この事件を含めて行政取材は自粛するように求められ、いずれは契約解除を突きつけられるのではないかと危惧していた。

筆者が取材で使っていたKKB鹿児島放送の名刺 ※一部にモザイク加工をしています

つまり私は、行政取材の成果を発表する場を失い、屋久島町政の取材に関しては、完全に筆を折られた状態に追い詰められたのだ。

4章 報道砂漠⑥につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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