4章 報道砂漠④『離島記者』

何がなんでも町の幹部を擁護する。
住民の声を顧みることなく、なりふり構わず百条委員会に反対する町議会に対して、住民団体代表の鹿島幹男さんはやり場のない憤りを感じていた。だが、石田尾町議らによる刑事告発で、私が取材を中断していたため、不正の事実を覆い隠そうとする町議会を追及できなかった。
住民団体の代表として約1年にわたり、町幹部と対峙してきた鹿島さんは屋久島出身で、1953年生まれの67歳。鹿児島本土の工業高校を卒業後、大阪の大手空調総合メーカーに就職し、労働組合の幹部として、8年間にわたって約2000人の組合員をまとめた経験もある。定年後は故郷に戻ったが、不正や不祥事が続く町政に危機感を抱き、出張旅費不正精算事件を契機に住民団体を立ち上げ、約30人の有志と活動を続けてきた。

このままでは、虚偽領収書の問題はうやむやのまま終わってしまう。そう危惧した鹿島さんは、10月に岩川元副町長らが起訴猶予になり、詐欺などの容疑事実が認められたことを受けて、屋久島町政の取材から遠ざかっていた私に声をかけてきた。
「出張記録が過去6年分あるんですが、一緒に調査をしませんか」
4月に告発されてから半年間、臥薪嘗胆の思いで次の好機を待ち続けていた私には、まさに渡りに船の誘いだった。私は迷うことなく「ぜひ、やりましょう」と即答し、1万6000枚の記録文書と向かい合うことになった。
鹿島さんから預かった出張記録の文書は、九つの段ボール箱にびっしりと詰め込まれていた。まずは、1箱ごとに文書の束を取り出してみたが、確認作業を始めてすぐに行き詰まった。文書の量があまりにも多く、一枚一枚すべてに目を通していたら、優に半年以上はかかると思われた。
そこで、私は航空機を利用した出張を優先して調べることにした。その時点で懸案となっていたのは、航空券代の領収金額が水増しされた出張で、領収書の提出が必要ない高速船や鉄道などを利用した出張は、あとまわしにした方が効率的だと考えたからだ。
だが、大量に並ぶ文書の山から、航空機を利用した出張記録だけを抜き出すのも、かなり骨が折れる作業だった。とりあえず、シルバー割引の件で調査が終わっていた町長を除いたうえで、副町長、一般職員、町議の三つに文書を分けて確認を開始。効率よくチェックできると期待していたが、結局は1枚ずつ目を通すしかなく、確認作業は牛歩のごとく進まなかった。

そのあと約1カ月をかけて、航空機を利用したケースに絞って抽出した出張記録は、町長を除き計356件にもなった。内訳は岩川元副町長が28件、一般職員が258件、町議が70件だった。
続いて、六つのチェック項目に従って、「不正の疑いがある出張記録」を抜き出した。その結果、領収書を発行した旅行会社に照会をかけるなどの必要がある「要調査」となったのは計165件で、内訳は次に挙げるとおりだった(一部重複あり)。
①航空券代を水増しした旅行会社が発行した領収書 127件
②但し書きに「チケット代」などと記載され、ホテルパック代の疑いがある領収書 24件
③領収書が添付されていない出張記録 20件
④発行日が空白、または出張後の日付が記載された領収書 34件
⑤住民に対する離島割引が適用される空路であるにもかかわらず、一般の普通運賃で精算した出張記録 5件
⑥そのほか不正が疑われる出張記録 2件(岩川浩一副町長が連続する2回の東京出張で、出張先で宿泊することなく、屋久島と東京を続けて2往復した出張)
鹿島さんら住民有志と協力しながら、確認作業を続けること約3カ月。要調査となった165件の出張については、調査の証拠にするため、旅費精算書や領収書などをすべてスキャナーにかけて電子データ化した。そして、2021年1月25日付で「屋久島町旅費不正調査報告書」を作成し、町に対して強く訴えた。
<私たち「清く正しい屋久島町を創る会」の調査で、さらなる不正の疑惑が判明した以上、屋久島町民の貴重な公費を守るためにも、町監査委員による公平公正な監査が強く望まれる>

住民有志が力を合わせ、約3カ月もかけてまとめた成果とあって、この報告書は大きな力を発揮してくれた。
まずは、要調査となった165件の出張のなかから、黒塗りで個人名はわからなかったが、町幹部と思われる職員の出張記録を抽出。すでに関係者から入手していた販売記録と照合してみたところ、またしても虚偽の領収書が見つかった。それも、ただの幹部ではなく、「町の金庫番」である会計管理者を務めていた元会計課長の出張だとわかり、私は驚きを通り越して、心底あきれてしまった。

この元会計課長は、現職だった2016年11月に大阪へ出張した際に、鹿児島と大阪の往復航空券代として、5万4800円の領収書を町に提出した。ところが、実際に支払った航空券代は3万9000円で、領収書の額面より1万580円も安かった。さらに問題なのは、鹿児島と大阪を往復したことにして、実際には復路で長崎に行っていたことだ。理由は定かではないが、町に提出した旅費精算書には、鹿児島と大阪を往復したと記載していることから、公文書である精算書に虚偽の内容を記載した疑いもあった。
会計管理者とは市町村などの会計事務を行う補助機関で、地方自治法によって設置が定められている。2007年の法改正で市町村では収入役が廃止され、それに代わる役職として置かれた。町長ら町執行部からは独立性を保ち、事業の実施と会計処理を分けることで、より厳格なチェック機能を果たすことが求められる要職だ。
そんな重責を担った元会計課長までもが、航空券代を水増しした領収書を使って、不正精算をしていたということである。

もっと調査をすれば、さらに多くの虚偽領収書が見つかるに違いない。
そう確信した鹿島さんは3月に鹿児島県庁で記者会見を開き、この調査結果をマスコミ各社に公表した。会見には真辺真紀町議も同席し、新たに判明した元会計課長の不正精算も説明。この問題が県内外に報道され、町内の世論に押されるかたちで、荒木町長が自ら不正調査に乗り出すことを期待したのだ。
ところが、新聞やテレビの反応は芳しくなかった。会見内容を短く報じた社はあったが、元会計課長の不正精算には軽く触れただけで、住民有志による調査結果が町内で広く知られることはなかった。
このマスコミ各社の対応をみて、私は同じ取材者として悟った。
この出張旅費不正精算事件は、ニュースとしての旬が終わった――。
元会計課長の不正精算であっても、町トップの町長とは違い、ニュースの価値はかなり低くなる。荒木町長の取材では、南日本新聞が連続2日にわたって一面トップで報じたこともあったが、それと比べれば、大きな見出しが立たないということである。
(4章 報道砂漠⑤につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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