取材記『離島記者』

3章 容疑者⑨『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

私は言葉を選びながら、こう言って刑事に思いの丈をぶつけた。

「この事件は、荒木町長が200万円もの出張旅費を不正に着服したことから始まり、私はその発端から取材してきました。その後、岩川副町長ら他の幹部までもが水増し領収書で不正精算していたことが発覚し、屋久島町としては前代未聞の事態でした。

そして、町の幹部らが不正に着服したのは、この町で暮らす一人ひとりが納めた血税であり、私たち住民はその被害者です。

それにもかかわらず、町長は不正調査をしないまま放置し、町議会も百条委員会で調査することなく、見て見ぬふりを続けました。さらには、副町長や議長ら幹部も、領収書が不正に発行された経緯を説明しませんでした。

そんな状況のなかで、この取材で旅行会社の責任者が真実を証言しなければ、すでに住民団体から刑事告発された町長に続き、副町長ら複数の幹部までもが告発されてしまい、町が大変な混乱に陥ると危惧しました。それゆえ、その最悪の事態を避けるためには、責任者にすべての真実を話してもらい、町役場が再発防止策を講じるきっかけにしてほしいと願っていました。

ですが、親会社の幹部や私たち記者に対する責任者の態度は、極めて無責任なものでした。一度は虚偽領収書の発行を認めて謝罪したにもかかわらず、いざ金額を水増しした理由を尋ねると、質問をはぐらかす回答ばかりでした。ついには、『何を言えばいいの?』などと、私たちを挑発するような発言も続けるようになりました。

私としては、そんな不遜な態度を許すことができず、屋久島で暮らす住民の一人として、より厳しい態度で責任者に向かい合うしかありませんでした」

すべて言い切ったところで、それまでじっと黙って聞いていた刑事が言った。

「武田さんって、熱い人ですね」

うっとうしい人間だと思われたのか、それとも熱血記者だとほめられたのか。なんとも微妙な雰囲気になってしまったが、私はそう訴えるしかなかった。
 
聴取4日目は、虚偽領収書の真相に迫ることになった。刑事の関心は、責任者と私たち記者2人の間で続いた応酬にあるようで、その約1時間にわたるやり取りについて、私は詳細に説明した。
 
親会社の幹部に対し、責任者は金額を水増しした領収書を岩川副町長ら町幹部に渡していたことを認めた。その理由について「売上を上げるため」と説明はしたが、なぜ金額を水増しした領収書を渡すと販売実績が伸びるのか、真の理由はわからなかった。

責任者の説明によれば、町役場から予約が入ると、その旅行会社では、搭乗する路線に設定された各種運賃のなかで、最も高い普通運賃の金額を領収書に書き、それを「見積書」や「メモ書き」の代わりに渡していた。だが、その後に割引航空券を売ったり、予約を変更したりして、実際に販売した金額が安くなったとしても、変更後の金額を記載した領収書を渡すことはなかったという。

岩川浩一副町長と岩川俊広議長が出張旅費の不正精算に使った領収書

そして、最高額の領収書を受け取った町幹部らは、水増しされた金額のまま出張旅費の精算をして、町から領収書と同額の旅費を受領。その結果、割引航空券などを購入することで、虚偽領収書の金額との間に生まれた差額が手元に残るのである。

これらの事実を踏まえ、責任者が領収書を水増しした理由として、私は次のような見立てをした。

町内には複数の旅行会社があり、責任者は町役場から予約をより多く取ることで、自社の販売実績を伸ばそうとした。それには他社にはない「特典」が必要で、それが領収書の水増しだった。町の幹部らにとって、実際に購入した航空券代より高額の領収書をもらうことで、出張する度にその差額が手に入るとなれば、それが「うまみ」となる。そして、次の出張でも責任者に予約を頼むようになり、結果的に責任者が「売上を上げる」ことにつながった。

取材での予断はよくないのはわかっていた。だが、同様のケースは少なくとも7件あり、それまでの取材でわかった事実を積み上げると、それ以外の理由は考えられなかった。

ところが、私たちの疑問に対し、責任者は真正面から向き合おうとはしなかった。「なぜ、領収書の金額を水増しする必要があったのか?」。私たちは何度も何度も繰り返して尋ねたが、「いやー、どういう風に言えばいいんでしょうね」「だから、何と書きたいの?」などと、話をはぐらかしてばかりいた。

その態度は、明らかに私たちを挑発していた。あとになって思えば、わざと感情を煽る発言をしたうえで、それに対する私たちの反応を隠し録音で記録し、刑事告発の証拠にするのが狙いだったともいえる展開だった。

だが不覚にも、私は告発人たちの策にはまってしまった。

あまりに開き直った態度が目に余るため、私は責任者に「今、本当のことを言えば、町民や社会に対して、まだやり直せる」などと言って、強い口調で説得しようとした。さらには、それでも責任者が挑発するような発言を続けたため、大きな声で「あなたは、納税者をなめているんですか!」と叱責してしまった。

取材者としては反省すべき点はあったが、その一方で、屋久島町に納税する一住民としては、憤りを覚えるのは当然だった。そして何よりも私が訴えたのは、町の公費が被害に遭った事件であり、二度と同じような不正が起きないようにするためには、虚偽の領収書が発行された経緯を明らかにする必要があるということだった。

出張旅費の不正精算が続いていた屋久島町役場

告発人たちの狙いどおり、まんまと私が挑発に乗り、うまく証拠の音声が録音できたからなのか。やがて、責任者は半ば諦めたように遠くを見つめて、領収書の水増しについて語り始めた。

責任者の説明は、おおむね私の見立てどおりだった。虚偽の領収書を発行する目的は、町幹部らの利用を増やして販売実績を伸ばすことで、それによって幹部らが差額を得ることも認識していたという。

つまり、責任者が町側に便宜を図っていたということである。

一方で責任者は、町側から領収書の水増しを頼まれたり、差額を分け合ったりしたことは「一度もない」と否定した。ただし、頼まれもしないのに、どうして金額を水増しする必要があったのかという疑問が残った。そこで、いつから虚偽の領収書を出すようになったのかと尋ねたが、「全然覚えていない」と逃げるばかりだった。

ここからは推察になるが、責任者と町幹部らの間には、長年にわたって虚偽の領収書を出す「慣習」があったのだろう。そして、出張する度に依頼しなくても、暗黙の了解で高額な普通運賃が書かれた領収書が発行されていたと考えざるを得なかった。

ようやく2時間にわたる社内調査と取材が終わり、懸案だった虚偽の領収書が発行された経緯と理由がわかった。私が示した7枚の領収書と照合するため、実際の販売記録を提出してもらう約束もできた。

そして最後に、私は責任者に頭を下げ、「きつい調子で言ってしまって、申し訳ありませんでした」と謝罪をした。質問への対応が不誠実だと感じたとしても、取材者としては、もっと冷静になるべきだったと反省したからだ。

それに対し、責任者は視線をそらしながらも軽くうなずいたため、私の謝罪を受け入れたのだと感じた。

3章 容疑者⑩につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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