4章 報道砂漠⑭『離島記者』

増え続ける虚偽の領収書
屋久島ポストを創刊する8カ月前の2021年3月、住民有志と私が約1万6000枚の出張記録を調べた結果を受けて、荒木耕治町長は監査委員に臨時の監査を指示していた。しかし、11月の創刊準備に追われていた私たちは、ほとんど忘れかけていて、年末の12月になって初めて監査結果が出ていないことに気づいた。

そこで、町の監査委員事務局に進捗状況を尋ねてみると、全く監査が進んでいないことがわかった。定期監査で忙しく、数百枚もの領収書をじっくり調べる余裕がなかったというのだ。
ただ、じっと待っていたら、いつ監査が始まるかわからない。そう疑った私たちは、すぐに<旅費不正の構図>と題した連載を屋久島ポストで始めた。副町長や議長らが不正精算に使っていた「見積もりの領収書」や「予約の領収書」などを紹介したり、監査委員に直接取材をしたりして、早急に監査をするように迫ったのだ。

監査委員とは、地方自治体の財務や事業について監査をする機関で、地方自治法によって設置が定められている。いわば、住民の公費が適切に使われているかどうかを調べる「監視役」で、首長や議会などから独立して存在する。屋久島町など人口25万人未満の市町村では、「識見を有する者」と「議員」の2人が任命されている。
本来であれば監査委員は、首長とは一線を画して公正公平なはずなのだが、屋久島町の場合は「怪しい」と、私たちは感じていた。
まず、「識見を有する者」として選ばれた朝倉富美雄・代表監査委員は荒木町長のご近所さんで、町長が初当選して以降に任命され、ずっと留任されたままだ。また、町議会から監査委員に選任された相良健一郎町議も、町長を支持する多数派から選ばれており、町に対して毅然とものが言えるとは思えなかった。

そのためか、監査委員2人の腰はとても重かった。詳細に調べれば、さらに多くの虚偽領収書が出てきて、町役場が批判されるのは明らかだった。そう心配したかどうかは定かではないが、町長の指示から9カ月間も放置していたとなると、監査をする気がなかったと言わざるを得なかった。
年末の取材と連載から約3カ月。かなり月日を要したが、重い腰を上げた監査委員は2022年3月末日、監査報告書を荒木町長に提出した。わずか6ページの薄い報告書だったが、私たちの予想どおり、さらに数多くの不正精算の事実が示されていた。

監査の対象となったのは、2014年度から2019年度の6年間に出張したすべての職員と町議で、すでに不正精算が判明している町幹部らは除いて、出張の件数は441件。そのうち150件について、領収書を発行した旅行会社に照会をかけ、精算額と実際の航空券の販売額に差異があったのは計38件という結果だった。
そのなかには、1年前に私たちが報告した元会計課長の虚偽領収書も含まれていたが、今回はそれに加えて、新たに現職町議による不正精算も発覚した。領収書を発行した旅行会社で確認したところ、会社内の販売記録には、その町議が航空券を購入した記録が残されていなかったというのだ。
これが事実であれば、販売した事実がない架空の領収書ということになる。居酒屋などで金額が記載されていない領収書をもらい、そこに実際より高い飲食代を自分で書いて、不正精算をする話は聞いたことがあった。だが、これでは金額の水増しどころか、支払いを一切していないことになり、さらに悪質な不正精算である。
その町議は、報告書では匿名だが、いったい誰なのか?
さっそく鹿島さんと私は、町から入手した1万6000枚の旅費精算書を引っ張り出し、全町議の出張記録と、監査報告書の記録を照らし合わせてみた。すると、わかった。出張の年月日と領収書の金額がぴったりと一致する旅費精算書があり、そこには元議長の日高好作町議の氏名が記されていたのだ。

それでは日高町議は、どのような出張精算をしていたのか。
町が開示した出張記録によると、日高町議は議長を務めていた2016年5月29日から6月1日、全国町村議会議長会の研修会に出席するため、東京に出張した。移動はすべて空路で、屋久島から鹿児島を経由して東京を往復。出張後、往復の航空券代として、計4万8180円となる領収書2枚を添付して旅費の精算をした。
ところが、日高町議が提出した領収書は、実際には航空券を購入していないのに発行された架空のものだった。
監査報告を受けて、私たちが監査委員に取材したところ、日高町議は5月31日に研修を終えたのち、家族と一緒に私的な旅行で石川県を訪ねていたという。精算書をよく見ると、その日は鹿児島空港近くのホテルに宿泊したことにして、日当などを含めて1万2200円を受け取っていたが、実際には石川県で旅行中だったのだ。
一方、屋久島と東京の往復航空券代については、この旅行会社が領収書を発行していたが、社内に販売記録が残されていなかった。
それを踏まえ、監査委員2人が日高町議に聴き取り調査をしたが、町議本人の記憶が定かでないため、領収書が発行された経緯はわからなかったという。

こうなると、本人から直に話を聴く必要があった。私たちは日高町議の自宅を訪ねたり、電話をしたりして、十数回にわたって取材を試みたが、いずれも不在や応答なしで接触できなかった。そこで、携帯電話のメールで「公費に関わる重要な話なので、公人である町議として、ご連絡ください」と伝えたが、これにも返信がなかった。
一方、日高町議に領収書を発行した旅行会社は、どんな説明をするのか。ところが、一連の出張旅費不正精算事件の影響もあり、その旅行会社はすでに閉鎖され、関係文書は親会社が管理していた。また、虚偽の領収書を発行していた責任者は詐欺ほう助の容疑で刑事告発され、懲戒解雇になっていた。
そこで、私たちが親会社の関係者に事情を尋ねると、「刑事告発された元責任者が不正に関わった可能性はあるが、すでに退職しているため、詳しい経緯はわからない」ということだった。
その後も日高町議は沈黙を貫いたが、5月11日に町議会の全員協議会が開かれると、さすがに黙っているわけにはいかなかった。
同僚の町議から架空の領収書について尋ねられた日高町議は、領収書を発行した旅行会社で「(航空券を)購入していない」と認めたうえで、「領収書については、私がもらった記憶はなく、(発行を)頼んだ覚えもない」と答えた。
閉会すると、次は屋久島ポストの出番である。議会棟の廊下で待ち構えていた私が「どこで航空券を買ったのか?」と質問すると、日高町議は足早に歩きながら「わからないですね」と答えた。さらに、架空の領収書について説明を求めると、「なんであなたに(答える必要があるのか)」と開き直り、それ以上の取材は拒否してきた。
全く取りつく島がなかったが、日高町議が取材に応じる意思がないことだけは、とてもよくわかった。そこで、さらに監査委員に取材をすると、日高町議は監査の聴き取りに対し、旅費精算の事務手続きを自分でしたことはなく、領収書の取り扱いも含めて「議会事務局の職員にすべて任せていた」と説明したということだった。
それでは、その職員はどのように証言するのか。
すぐに私は島民記者に取材を頼み、2016年当時に議会事務局で働いていた職員に事情を聴いてもらった。すると職員は、日高町議の旅費精算書を「自分が作成した」と認めたうえで、「領収書は日高町議から受け取ったと思う」と証言。普段の業務で旅行会社から航空券の領収書をもらうことはなく、「そもそも、(領収書を発行した)旅行会社がどこにあるのかも知らない」と話した。
このままでは、不正精算の責任を押しつけられたようで、その職員が気の毒だった。
日高町議は1999年に旧屋久町議選で初当選して以来、20年以上にわたって町議を続けるベテランで、議長の経験もある。そんな日高町議から「職員にすべて任せていた」と言われれば、立場の弱い職員が反論するのは難しかった。
(4章 報道砂漠⑮につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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