5章 負の連鎖⑨『離島記者』

ここまで聞いた私は、警察の対応に不信を抱いた。
通報を2回もした住民に対して、なぜ何も報告しないのか。また、最初の通報で廃棄物の投棄を把握したのちに、再び焼却の通報を受けるまで、なぜ現場で捜査をしなかったのか。
さらに疑問なのは、住民が告発状を出す意思を示したにもかかわらず、警察が断っていることだった。
そこで、それまでの数年間に、町内で発生した不法な投棄と焼却の事件について調べることにした。屋久島警察署に尋ねると、2016年から2020年の5年間で、廃棄物処理法違反の容疑で書類送検した事件は6件あり、その後に罰金命令が出た例もあったという。だが、それ以上の詳細な情報は教えてもらえなかった。

こうなると、再び島民記者に頼ることになった。「不法投棄などで罰金命令を受けた住民を知りませんか?」と、人から人に話を広げてもらったところ、数日で3人の住民に接触することができた。
まず1人目は、2020年に50万円の罰金命令を受けた30代の男性で、事件の経緯は次のような内容だった。
男性は2019年の夏ごろ、不要になった約350キロの家財道具を処分しようと、海岸近くの空き地に捨てた。その後、不法投棄の通報を受けた屋久島警察署から事情を聴かれたため、警察官の手助けも受けながら、捨てたごみをすべて撤去した。そして、警察で事情聴取を2回受けて、供述調書に署名と押印をした。
だが、その後の手続きについては説明がなく、男性は「ごみを片づけたので、これで終わった」と、自分なりに理解した。ところが、それから1年後の2020年夏ごろ、鹿児島地検から電話連絡があり、検察官から事情聴取を受けることになった。
その結果、主に罰金を科す事件を扱う鹿児島区検察庁が男性を略式起訴したのちに、屋久島簡易裁判所は罰金50万円の略式命令を出した。そして、男性は満足な貯金がなかったため、全額を消費者金融で借りて支払ったという。
リフォーム工事で出た廃棄物を燃やした岩山町議が、検察の「注意」で終わったことについて、男性は「町議ということで対応が違うとしたら、一般人としては納得できない」と憤った。また、「なぜ町議は注意なのか。それが事実なら、不公平な捜査だ」と批判した。
2人目は、木の廃材を燃やして、2017年に40万円の罰金を支払った70代の男性だった。
その男性は同年秋ごろ、自宅の倉庫を解体して出た垂木30本と柱材6本を私有地で焼却した。深い穴を掘って燃やしたが、思っていたより炎が大きくなり、火災を疑った通行人が消防に通報。その後に屋久島警察署で事情聴取を受けたのち、屋久島簡裁から40万円の罰金命令を受けたという。
男性は「私有地で燃やし、すべて灰になる木材だけだったので、まさか40万円もの罰金になるとは思わなかった」と話した。

最後の3人目は、海岸に漂着したごみを燃やして、罰金命令を受けたケースだった。
30代の男性はその10年ほど前、親族と一緒に海岸に漂着したごみを集めて、暖を取るために燃やした。すると、通報を受けた警察官が駆けつけ、その後に数回の事情聴取を受けた。そして、男性と親族は2人で計70万円の罰金命令を受けたという。
過去に罰金命令を受けた住民3人から話を聴いた限り、岩山町議のケースは「注意」で終わる事案ではないと、私は感じた。さらには、最初にあった住民からの通報で本格的な現場検証をしないなど、捜査に消極的だった警察の姿勢もうかがえた。
そうなると、再び警察に話を聴かなくてはならない。だが、県警の記者クラブに加盟していない私たちは、屋久島警察署の次長にこう言われ、軽くあしらわれた。
「個別の案件で、捜査や事件送致の有無については答えられない」

それでは、あれだけ大量の廃棄物を燃やした岩山町議に対し、「注意」だけして済ませた鹿児島地検はどう説明するのか。ところが、屋久島ポストの取材に対し、地検の広報官も冷たかった。
「司法記者クラブに所属している報道機関以外の取材は受けない」

私は警察や検察の閉鎖性を強く感じた。
富山県警の記者クラブに出入りしていた若手記者のころは、何か大きな事件が起きると、夜に県警本部の刑事部長宅を訪ねれば、それとなく捜査の進展状況を教えてもらえた。毎夕、必ず通って起訴状の確認などをしていた富山地検でも、報道対応をする次席検事とは簡単に話すことができた。
それがフリーの記者になると、ここまで冷たくされるとは……。取材者として、私は何も変わらないのだが、新聞社にいたころは「ぬるま湯」につかり、楽に取材をしていたということである。
ここまで捜査当局に取りつく島がないとなれば、町議本人から直に事情を聴くしかない。拒否されるとは思ったが、私は町議会がウェブサイトで公開している各町議の連絡先を見て、岩山町議に電話をかけてみた。すると、意外にも穏やかな声で取材に応じてきた。

まずは、最も気になる「注意」について、私は「地検で注意を受けたということは、焼却したことを認めたのですか?」と尋ねた。それに対し、岩山町議は「はい。不起訴とか、そういう言葉はなく、電話で『今回は注意ということだけになりました。以後、気をつけてください』と言われました」と、町議会のときと同様の話をした。
続いて、それまでの取材で、岩山町議が「許可を取っていた」と町の関係者に説明していることを把握していた私は、「どのような許可ですか?」と質問。岩山町議は「畑に木材を運ぶことに許可を受けました。木片をお風呂の焚き物にしたいという人がいるので、木の部分を仮置きしていいという許可です」と答えたうえで、町の生活環境課長から口頭で「許可」を得たと説明した。
廃棄物処理は鹿児島県の所管なので、町が許可を出すはずはなかった。そこで、私が「行政が法律に基づいて出した許可ですか?」と尋ねると、岩山町議は「それはわかりません」と言った。だが、一方で「警察に呼び出されたときに許可の話をして、警察も『それが確認できた』と言って、許可と認めてくれました」とも話した。
(5章 負の連鎖⑩につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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