5章 負の連鎖⑤『離島記者』

2022年9月13日の町議会で質問に立った真辺町議は、私たちの報道を引用して、こんな主張を荒木町長にぶつけた。
「屋久島ポストが取材をかけたら、森山事務所は『個人からの贈り物という認識だった』とコメントしています。本来、これは公費で贈答すべきものではないと判断するのが妥当だと思います」

すると、荒木町長は耳を疑うような答弁を返してきた。
「どこから、どう(森山議員を)特定したのかわかりませんが、それは屋久島ポストさんの想像でしかないと思います」

町役場内の議会中継モニター前で取材していた私は、「おい、おい、それはないだろう」と思わず声を出してしまった。
わずか1カ月前の取材で荒木町長は、森山議員への贈答が多いことを認めて、自ら反省までしていたのに、これはどういうことなのか。町議会という公の場で、「屋久島ポストの想像でしかない」とまで言い切られると、私たちが勝手な推察で記事を書いていると、誤解されてしまうではないか。
さらに、真辺町議は「町が贈り物をしないと、何かをしてくれないという考え方が間違っているのではないのか」と問いただした。だが荒木町長は、有人国境離島法や過疎地域持続的発展支援特別措置法(過疎法)が制定される際に、当初は対象から外されていた屋久島町が国会議員の尽力で対象となったことで、「(多額の交付金などで)町に大きなメリットがあり、そのお礼として贈答したと理解している」と述べ、一連の贈答が「妥当」だったとの認識を示した。
住民代表が集まる町議会で、町長にここまで言われると、私たちとしては、黙ってはいられなかった。そのまま放置すると、屋久島ポストが想像で報道しているという誤解が広まってしまうからだ。
そこで、まずは荒木町長の議会答弁が虚偽であることを明らかにするために、直接取材で録音した町長の発言をユーチューブ動画に上げて、記事のなかで紹介した。
通常、私たちは相手の了承を得たうえで、記事を書くための確認用としてインタビューを録音している。そのため、テレビやラジオのように、その音声を報じることはしないのだが、今回ばかりは自分たちの潔白を証明するために、やむを得ず公開することにした。

続いては、荒木町長に対して抗議文を出さなくてはならなかった。屋久島ポストで音声を公開したところで、町長は無視するだけで、自身の発言に責任を取ることはない。そのため、直接取材で録音した音声をテキストに起こしたうえで、その内容を踏まえて、次の文面で町長に回答を求めた。
<私どもの取材記録によると、貴殿による議会答弁の内容は事実と違うと判断しております。特に「それは屋久島ポストさんの想像でしかないと思う」という答弁は、私どもの取材に対する社会的な信用を損なう内容であり、屋久島町で暮らす一町民としては看過することはできません>

ところが、その10日後に届いた回答文は、一方的に荒木町長の言い分を伝えるものだった。
まずは、森山議員への贈答が多いことを認めたうえで、<森山氏個人に対する贈答についての事前通告を受けていなかったため、議会の場では、 森山氏の氏名を明らかにして答弁する必要はないと考えて発言した>という。だが、それではなぜ「屋久島ポストの想像でしかない」と言ったのか、その理由がさっぱりわからなかった。
そして、私たちに対する謝罪の言葉は一つもなく、最後はこう伝えて回答文を締めくくった。
<今回の議会答弁は、貴殿らの取材に対する社会的信用を損なうことを意図したものではない>
町長の「意図」ではなく、「発言」が問題になっているのに、この主張は許せなかった。出張旅費の着服を虚偽答弁で完全否定したときもそうだが、荒木町長は平気で嘘をつけるタイプの政治家なのだろう。そして、このまま放置すれば、今後も虚偽発言が続くことになる。この悪癖を絶つには、ここで諦めるわけにはいかなかった。

回答文を一読した私は、すぐに総務課の担当職員に電話を入れ、「町長の発言は名誉毀損にあたる内容で容認できない」と抗議した。「名誉毀損」という表現を使い、法的な措置も辞さないという姿勢を暗示することで、町長に発言の撤回を迫るのが狙いだった。
すると、荒木町長の対応は一転した。
町議会12月定例会で、再び一般質問に立った真辺町議に対し、荒木町長は「(9月定例会の一般質問で)示された贈答先(森山議員)は、8月2日に屋久島ポストの取材に私が回答した贈答先(と同じ)」と述べ、報道が事実であると認めた。続けて、「屋久島ポストの報道が憶測に基づくもので、事実とは違うとの誤解を与える表現だった」として、9月定例会での発言を撤回したうえで、こう謝罪した。
「情報公開活動を行っている屋久島ポストの関係者に対し配慮を欠き、申し訳なく思っている」

住民からの抗議で、荒木町長が議会答弁を撤回して謝罪に追い込まれたのは、私が知る限りでは、これが初めてだった。これで町長の虚偽答弁がなくなるとは思えなかったが、自身の発言に対して、一定のけじめをつけさせたという意味では、大きな一歩になった。
一方、私たちが調べた限りでは、森山議員への贈答も含めた国会議員への贈答額は計122万円で、他にも複数の議員がいる可能性があった。そこで、すでに取材した森山議員を除き、鹿児島県選出の国会議員7人の事務所にメールを送り、荒木町長からの贈答について質問してみた。
すると、鹿児島1区の宮路拓馬衆院議員の秘書からすぐに返信があった。
まずは「焼酎や果物をいただきました」と贈答があったことを認めたうえで、「県外の方へ屋久島の産品のPRとして、提供させていただきました(※事務所スタッフもおいしくいただきました)」という。そして、最も気になる贈答に対する認識は、「(町長)個人からの贈答品」ということだった。

その他の議員については、電話で贈答の受領を否定した秘書もいたが、多くは回答がなかった。だが、県選出の国会議員のなかで、少なくとも2人の認識が「町長個人からの贈答」ということは、やはり公費による贈答は「不適切」だったということである。
(5章 負の連鎖⑥につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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