5章 負の連鎖⑧『離島記者』

世界自然遺産の島を汚す町議会議員
2023年7月21日、屋久島町内で暮らす住民から電話を受けたとき、私はその事件のことをほとんど忘れかけていた。
「岩山鶴美町議が略式起訴されたと検察官から電話がありました」
それは、その約1年半前に岩山町議を刑事告発した住民からの情報提供だった。
告発の容疑は廃棄物処理法違反(投棄禁止、焼却禁止)。岩山町議が2020年9月から12月、自身で経営するアパートのリフォーム工事で出た大量の廃棄物を不法に投棄して、そのすべてを焼却したというものだった。
略式起訴とは、検察官が罪の事実を認定したのち、公開の刑事裁判を開かずに、書面の審理だけで処分すると判断した場合に決定される。要件としては、100万円以下の罰金または科料が科せられる事件で、容疑者本人が略式起訴に同意した場合に限られる。
この略式起訴に続いて、裁判所が罰金の略式命令を出せば、現職である岩山町議の有罪が確定するということである。
事件が発覚したのは、岩山町議が略式起訴される2年前の2021年7月だった。美しい自然を誇る世界自然遺産の島で、現職の町議が起こした不祥事とあって、町議会の全員協議会で問題となった。だが岩山町議は、廃棄物を焼却したのちに警察の捜査を受けたことを認めたうえで、なんとも不思議な説明をした。
「(鹿児島地方検察庁から)注意を受けました。罰金とかなくですね。以後、気をつけたいと思います。ありがとうございます。皆さん、気をつけてください」
その発言を傍聴席で聞いていた私は、「そんなことがあり得るのか」と強い違和感を覚えた。警察の捜査を受けて地検に書類送検され、廃棄物を燃やした事実を認めたのに、なぜ「注意」で終わったのか。容疑事実を争わずに反省して謝罪したのであれば、少なくとも起訴猶予の不起訴処分になるはずだった。

公人の町議が起こした事件であっても、起訴されない限りは、原則として鹿児島地検は報道発表をしない。本当は「注意」ではなく、起訴猶予だった可能性もあったが、フリーの記者である私はもちろん、司法記者クラブに加盟しているマスコミの記者たちも、岩山町議の説明が事実なのかどうか、地検では確認のしようがなかった。
本来であれば、ここで取材を諦めるのだが、屋久島ポストにはマスコミをしのぐ取材網がある。島民記者が方々を駆けまわると、やがて突破口が開けた。岩山町議が不法な投棄と焼却をした現場を目撃して、その様子を写真で撮影していた住民に辿り着いたのだ。
さっそく私も加わり、その住民がスマートフォンで撮った写真を見せてもらうと、とても「注意」で終わるような現場ではなかった。

まず、2020年9月に撮られた写真には、リフォーム工事で出たとみられる廃棄物が大量に積まれた様子が写っていた。写真を拡大すると、角材やベニヤ板などの廃材に加え、ドアや窓枠までもが捨てられており、工事で出た廃棄物であることは明らかだった。

続いて、翌2021年1月に同じ場所で撮られた写真を見ると、地面を真っ黒に焦がした焼却現場が姿を現した。前年9月に積まれていた廃棄物がそのまま燃やされた跡とみられ、焦げた畳も放置されていた。現場に近寄ったカットには、燃え残った針金やネジなどの金属片だけでなく、コーヒーの空き缶までもが写っていた。

写真を確認した私は、岩山町議がたった一人で、これだけ多くの廃棄物を投棄するのは不可能だと感じた。大量の廃材などを運ぶには大きなトラックが必要だ。山のような廃棄物に火を入れるには、リフォーム工事をする専門業者などの協力がいると思われた。
これだけの事件を「注意」で終わらせてはならない。
そう強く感じた私は、現場を目撃した住民から話を聴き、警察や検察の判断が正しかったのかどうかも含めて、詳細に検証する必要があると考えた。投棄現場で撮った写真をあらためて見た住民も、「注意」という結果に疑問をもっており、当時の様子を詳しく語ってくれた。
大量の廃棄物が投棄されたのは、島東部の安房地区にある農地だった。岩山町議の親族が所有しており、広さは約1400坪。山腹の高台にある畑で、島名産のタンカンの木が数十本植えられている。
住民が最初に現場を目撃したのは、2020年9月14日だった。知人宅を訪ねるため、現場近くを通りかかったところ、大量の廃棄物が山積みに放置されていることに気づいた。よく見ると、壁板や窓枠、ドアなどが無造作に捨てられており、幅2メートル、長さ5メートルほどにわたって大量に積まれていた。

住民は、この年の夏に岩山町議が自身で保有する賃貸アパートをリフォームしていたことを知っていたため、その工事で出た廃棄物が放置されていると思った。そして、証拠の現場写真を撮影したのちに、その場から屋久島警察署に電話で通報した。
電話に応対したのは、生活安全刑事課の課長代理で、住民は自身の氏名、住所、携帯電話番号を伝えた。その際に、住民が「捨てられているのは産業廃棄物ではないか」と指摘したところ、課長代理は「産業廃棄物かどうかは警察で判断する」と言ったという。

それから4カ月近くが過ぎた2021年1月5日、住民が正月行事で使う竹を探すため、再び現場付近を通りかかると、前年9月に見つけた廃棄物の山が焼却されていることに気づいた。黒焦げになった廃材や燃え残った畳などが放置されていたため、前回と同様に現場写真を撮影したうえで、屋久島警察署に電話で通報した。

応対したのは、前回と同じ生活安全刑事課の課長代理で、「警察としては一生懸命やっているが、それ以上は話せない」と伝えられた。それに対し、住民は「告発状を出す必要はないか」と尋ねたが、課長代理からは「その必要はない」と言われたという。
その1カ月後となる2月初め、住民が再び現場を訪ねると、町道に面した2本の立ち木に黄色いテープが張られ、焼却跡に近づけない状態になっていた。住民は通報を受けた警察が現場検証をしたと考え、屋久島警察署に電話を入れて、捜査の状況を尋ねようとした。

過去2回と同じく、生活安全刑事課の課長代理が電話に出たが、またしても「警察としては一生懸命にやっているが、それ以上は話せない」と伝えられた。そして再度、住民は「告発状を出す必要はないか」と尋ねたが、課長代理は「必要はない」と答えたという。
さらに2021年6月初めごろ、前年に最初の通報をしてから約8カ月が過ぎても、その後の状況が一切わからなかったため、住民は屋久島警察署に電話を入れて、捜査の進展を確認しようとした。ところが、後任の課長代理からは「何も話せない」と言われ、自身が通報した事件がどうなったのか確認ができなかったという。
(5章 負の連鎖⑨につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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