取材記『離島記者』

5章 負の連鎖⑪『離島記者』

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『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

これら一連の問題について報道を続けるうちに、鹿島さんと私は、事件を警察に通報した住民からこんな心情を打ち明けられた。

「廃棄物処理法に違反したのは同じなのに、一般人は罰金命令で、町議は『注意』というのは絶対におかしい。この間違いを正すには、どうすればいいのでしょうか?」

それに対する答えは「刑事告発」だが、これには大きな問題があった。この事件はすでに捜査が終わっているので、鹿児島県警が告発状を受理するとは思えなかったからだ。

鹿児島県警本部(中央)。左は鹿児島県庁などの県関連施設=鹿児島県ウェブサイトより

それでは、どうすればいいのか。私たちは取材を兼ねて法律の専門家らに相談し、何かいい策はないかと探ってみた。すると、一つだけ告発に向けた糸口が見つかった。

推察による仮定ではあったが、住民が最初に不法投棄の疑いで通報した際に、警察は現場での捜査をしていないようだった。そうなると、岩山町議が書類送検される際に、証拠として提出されたのは、リフォーム工事の廃棄物が燃やされたあとの写真なので、検察官は焼却前の状況を知ることができなかった可能性がある。

もしそうであれば、検察官は廃棄物の山が写った証拠写真を見ておらず、窓枠やドアなどが一緒に焼却された事実を知らない可能性があったということである。そして、新たに焼却前の写真を証拠提出すれば、再び事件として捜査する見込みがあると思われた。

壁板や窓枠、ドアなどが無造作に捨てられた廃棄物の投棄現場=2020年9月14日、屋久島町安房、住民撮影

ただし、もう一つ問題があった。もし、焼却前の写真が地検に提出されていなければ、それは警察側の落ち度となる。そうなると、県警に告発状を出しても、受理してもらえない可能性が高かった。

それを踏まえ、鹿島さんと私は住民に伝えた。

「告発状は県警ではなく、鹿児島地検に出した方がいいと思います。最初に現場を目撃したときから、これまでの経緯を文書にして、焼却前後の写真を提出すれば、再捜査してくれるかもしれません」

この助言を受けて、住民は2022年2月、容疑として廃棄物処理法違反の不法投棄と不法焼却の二つを示し、鹿児島地検に告発状を提出した。すると、地検から住民に連絡があり、不法焼却は事件として終わっているが、不法投棄はまだ捜査していないので、告発の容疑を不法投棄だけに書き直すように指示された。

推察のとおり、検察官は焼却前の写真を見ていなかったのだ。そして、住民が容疑を不法投棄だけにして告発状を再提出すると、翌3月初めに正式に受理された。

鹿児島地方検察庁=同庁ウェブサイトより

一度は「注意」で終わった事件だったが、住民が撮影した不法投棄の写真が決め手となり、再捜査が始まった。いくら岩山町議が「木片を燃やした」と供述しても、あの廃棄物の山を写真で見れば、それを信じる人はいないということだ。あらためて私たちは、写真の証拠力が高いことを実感した。

再び事件化したことで、さらに取材を進めると、信じがたい事実が明らかになった。廃棄物が投棄される1年前にあった2019年9月の町議会一般質問で、岩山町議が不法投棄をする住民が多いことを批判し、「ごみのポイ捨て」にも罰金を科す条例の制定を提案していたことが、町議会の議事録に記録されていたのだ。しかも、その様子を撮影した動画も議会事務局に残されていた。

屋久島町議会が議会の動画配信をユーチューブで始めたのは2022年6月からで、それ以前の動画はネット上には残されていなかった。そこで、私たちは情報公開制度を利用して、議会事務局が保管する当時の動画ファイルを請求した。今回は紙の公文書ではないため、電子データをDVDにコピーして公開することを求めた。

動画ファイルが開示されるまでの間に、町のウェブサイトで当時の議事録を見ると、岩山町議はこんな発言もしていた。

「そもそも、不法投棄というのは犯罪にあたるんですね」

ここまで不法投棄が「犯罪にあたる」と明言していたということは、その1 年後にリフォーム工事の廃棄物を捨てて燃やしたときも、岩山町議は自分が違法行為をしていると認識していたということだ。それも住民の代表が集まる町議会で、不法投棄をする住民が多いことを批判したとなれば、町議としての資質を問われる事態となる。

岩山鶴美町議が屋久島町内で不法投棄が多いことを批判した発言の一部=2019年の屋久島町議会9月定例会の議事録より

その後、開示申請から1カ月でDVDを受け取った私たちは、すぐに動画を再生。議場に立つ岩山町議を映し出したパソコンの画面からは、にわかには信じがたい発言の数々が、生々しい映像と音声になって浮かび上がってきた。

【動画】岩山鶴美町議が不法投棄をする町民が多いことを批判した議会動画=2019年9月13日


まず冒頭で、岩山町議は声高らかに「今回は、そんなすばらしい私たちの島、屋久島を守り続けていくための質問です」と宣言。これに続いて、一般質問の趣旨をこう説明した

「屋久島町のごみのポイ捨てや不法投棄の現状はどうなのかというなかで、一番目に、ごみのポイ捨てや不法投棄による環境汚染や町の景観の破壊を抑止し、ごみゼロの町づくりにするために、屋久島町独自の条例をつくるつもりはないですか、です」

まだ、動画は始まったばかりだが、あまりにも自信たっぷりに発言する岩山町議の姿に触れ、私は自分の目を疑ってしまった。「ごみゼロの町づくり」のために、町独自の条例の制定を提案した町議が、まさかこの一年後に、自分自身で不法な投棄と焼却をするとは思えなかったからだ。

続けて岩山町議は、この質問をするに至ったきっかけを紹介した。

「ある日、住民の方から、不法投棄が多いことを知っているかと言われて、なぜ人の土地に投げ込まれたごみを役場は処分してくれないのか。おかしいじゃないかって、何の仕事をしているんだって、すごいお叱りを受けました。私も勉強不足ということもあって、『わかりました。調べてきますね』と言って、担当課をはじめ警察、保健所の話を聴いて、現場にも行ってみたりしました」

屋久島町内で不法投棄などが多いことを批判する岩山鶴美町議=2019年9月13日、屋久島町議会の議会動画より

住民から不法投棄の問題を指摘され、勉強のために警察などで話を聴いたということだ。その結果、こんなことがわかったという。

「そもそも、不法投棄というのは犯罪にあたるんですね。法律で禁止されていて、決して許されない行為のはずなんです。5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられるんです」

警察の説明を受けて、廃棄物処理法に目を通したのだろう。確かに25 条を見ると、岩山町議の説明と同じ厳しい罰則が書かれている。だが、それでも町内では不法投棄があとを絶たないという。

「警察というのは民事不介入ということもあり、動けないこともあるということで、それでも最近、数件、すごい質の悪い不法投棄があって、どこの集落とは言いませんけれども、罰金を科せられて検挙したということでした」

警察も困っているとのことで、「どこの集落とは言いませんけれども」と嫌みのような前置きをして、罰金命令を受けた住民を批判。その現状を知って、岩山町議はがっかりしたという。

「ああ、やっぱり多いんだなというか、それだけのことをする人いるんだなって、すごい残念でした」

5章 負の連鎖⑫につづく)

【動画】岩山鶴美町議が不法投棄をする町民が多いことを批判した議会動画=2019年9月13日

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

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