1章 町長の嘘⑧『離島記者』

これで荒木町長に端を発した出張旅費の不正精算は、副町長、議長、副議長にまで広がり、屋久島町を代表するトップ4人が公費を不正に着服するという前代未聞の事態となった。そして、南日本新聞に加えて、私が契約する朝日新聞も記事を掲載し、一連の不正精算について報道した。

しかし、町役場は沈黙を続けた。荒木町長は虚偽の領収書が発行された経緯などを調査することはなく、町の監査委員に監査を指示することもなかった。
新たに発覚した虚偽領収書の問題は、このまま調査されずに放置されるのか。別々にではあるが、地元紙の記者と取材を続ける私は、報道で発覚した不正を不問にする荒木町長の姿勢が許せなかった。
そして3月に入り、岩川浩一副町長は約7万5000円、岩川俊広町議は約8万円、岩川修司町議は約11万円を、それぞれ町に返還した。だが、やはり虚偽の領収書が発行された経緯などの調査は行われることはなく、私は無力感を味わった。

あとの望みは町議会の3月定例会だった。この旅費着服問題を追及する真辺真紀町議が一般質問に立ち、第三者委員会による調査を迫ったが、やはり荒木町長は全く応じなかった。こうなると、町長のシルバー割引による旅費着服と同様に、虚偽領収書の問題を調査する百条委員会の設置案を提案するしか、他に手段はなかった。
そして、2020年3月23日の定例会最終日に真辺町議が百条委設置案を提案。それまでに存在が判明した虚偽の疑いがある7枚の領収書のコピーを示したうえで、こう訴えて同僚の町議に賛同を求めた。

「荒木町長と岩川副町長に加え、元議長の岩川俊広町議までもが、旅費の不正精算をしていたことが判明する異常事態に陥っており、町民は、役場にも議会にも不信感を募らせています。(中略)そのような状況のなかで、私たち屋久島町議会に課せられた責務は、強い調査権を有した百条委員会を設置し、旅費精算の不正に関する調査をしたうえで、再発防止策を立案し、一刻も早く屋久島町の信用を取り戻すことです」
この提案に対し、またしても町長派の町議たちが立ちはだかった。

一貫して町長を守り続ける石田尾茂樹町議は「自己申告で足りる」として、不正調査は必要ないと主張。また、1月の臨時議会で町長の虚偽答弁を「間違い」と言い換えて擁護した岩山鶴美町議は、調査に弁護士費用がかかることを理由に「お金をかけずに、みんなが自己申告すればいい」などと反対討論をした。
最後に採決が行われ、反対9人、賛成3人で設置案は否決された。

また、この日の町議会では、不正精算をした岩川副町長の給与を減額する条例案も提出され、賛成多数で可決された。4月分の給与を4割カットし、月給60万円を36万円に減給する内容だったが、一部の町議から「不正調査が終わっていない段階での減給処分は妥当性がない」などと反対の声が上がった。

それに対し、ただ一人だけ反論した石田尾町議は、「減給したら済む問題ではないことは、みんな理解している」と指摘。だが、岩川副町長の任期が残り1カ月しかないことを踏まえ、行政処分で責任を果たすべきだと主張した。
そして最後に語気を強めて、こう言い放った。
「仮に(減給処分が)ダメだとするならば、刑事告発してくださいよ! やればいいじゃないですか!!」
この過激な発言で、にわかに傍聴席はざわついた。減給処分をする前に、まずは不正調査をするべきだという意見に対して、いきなり「刑事告発すればいい」と挑発するような言い方は、言論の府である議会を傍聴する住民としては、かなりの驚きだったに違いない。

一連の議会審議を取材してきた私は、屋久島町は役場だけでなく、議会も機能不全に陥っていると感じた。なにもいきなり「刑事告発すればいい」とまで言わなくても、町議会が百条委員会で調査すれば、警察や検察の手を借りずに虚偽領収書の真相がわかるのだ。
それにもかかわらず、なぜ、その選択肢を一方的に排除して刑事告発なのか、私には理解できなかった。
2020年4月になり、新年度が始まると、新型コロナウイルスの感染拡大が国内外で深刻な問題となった。医療体制に不安がある離島の屋久島では、「いつ最初の感染者が出るのか」との緊張感が高まり、旅費着服問題に対する住民の関心は薄れ始めていた。
コロナ禍にまぎれて、このままシルバー割引や虚偽領収書の問題はかき消されてしまうのではないか。そんな心配が広がりつつあった新年度の早々に、ようやく荒木町長が記者会見を開くと発表した。弁護士に依頼していた調査がほぼ終わり、シルバー割引の利用回数や着服した総額などを公表するというのだ。
4月2日、前年末の記者会見と同じホテルの宴会場には、記者やカメラマンら数十人が集まった。そして、注目の着服額が公表されると、記者たちは一様にその金額の多さに驚いた。
調査で確定した着服額は、日本航空(JAL)を利用した分が約180万円で、調査中の全日空(ANA)の利用分を含めると、約200万円になる見込みだというのだ。さらに驚かされたのは、4年間で搭乗したJAL便だけで83回も旅費を着服し、これから確定するANAの分も含めると、合計で100回近くになるという。
100回も着服を繰り返し、その総額が200万円にも膨れ上がっていたとは、当の本人である荒木町長が一番驚いたのではなかろうか。シルバー割引を1回利用して数万円がポケットに残っても、何の疑問も抱かなかった感覚は信じがたかった。

これほどまでに公費を軽く扱う政治家が、このまま町長の椅子に座り続けるのか。それとも責任を取って辞職するのか。屋久島町の住民が最も注目する進退について、荒木町長は手元に用意した文書に目を落としたまま、マイクを手にしてこう言った。
「私の政治的な責任を取るべく、自身の報酬を6カ月間、無給とすることとし、そのための条例の改正案を議会に上程いたします」
つまり、町のトップとして続投するということだ。町長の月給は約76万円なので、半年無給だと約456万円を返上することになる。また、着服した差額もすべて返還することで、旅費着服問題の責任を全うするという。
だが、当初の取材で荒木町長に嘘をつかれた私としては、どうしても納得できなかった。もし、私たち記者が取材をしていなければ、町長はそのままシルバー割引の悪用を続け、いずれ着服額が1000万円超に膨れ上がっていた可能性もある。
それは、虚偽答弁をされた一部の町議も同じ思いだろう。これでは町議会で堂々と虚偽答弁をして、それがバレてしまっても、着服額を返せば許されるということを認めたことになる。
町長の虚偽答弁。そして、副町長と議長が「見積もりの領収書」や「予約の領収書」と強弁する虚偽領収書。
町トップの嘘につぐ嘘の連鎖に揺れた屋久島町だが、荒木町長の旅費着服については、刑事的な責任を除いて、一定の決着を見た。だが、虚偽の領収書については調査が一切なされることなく、その後も町役場と町議会は見て見ぬふりを続けた。
(2章 失敗①につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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