7章 逆風のなかで④『離島記者』

y@kushima-post-administrator@
『離島記者 報道砂漠で闘う市民メディアの挑戦』カバー写真

言いがかりの訂正要求

屋久島町議会の幹部によるKKB本社の訪問で、私の筆を折った成果に味をしめたのか。

町側からの圧力は、ついに私が契約する朝日新聞社にもおよんできた。町議会の岩川俊広議長らに続いて、次は町の総務課長が法律顧問の河野通孝・法務事務専門員と一緒に、同社の鹿児島総局を訪ねたのだ。

朝日新聞鹿児島総局=鹿児島市東千石町、Google ストリートビューより ※現在は別の場所に移転しています

訪問の目的は、私が書いた記事に対する苦情で、総務課長らは訂正を申し入れるつもりだった。だが、記事にはどこにも間違いがなく、取材した私にとっては、全くの言いがかりだった。

町が難癖をつけたのは、朝日新聞の鹿児島版に2019年8月16日付で掲載された記事だ。島外の児童を町立小学校で受け入れる山海留学で起きた体罰問題で、児童側が町と体罰をした里親を相手取り、大阪地裁に提起した損害賠償請求訴訟に関する続報だった。

山海留学の体罰問題について報じた朝日新聞鹿児島版の記事の一部(2019年8月16日付)

裁判で児童側は、児童を預かった里親の管理責任は町にあると訴えたが、町は「山海留学の実施主体は町ではない」と主張し、請求の棄却を求めて争った。だが大阪地裁は、町と里親が計120万円の解決金を払う和解案を提示。町に一定の責任があることが認められたかたちで、同年7月に和解が成立していた。

ところが、和解後も取材を続けると、意外な事実が浮かび上がった。国土交通省から山海留学の補助金を受給する際に、町が申請書の事業実施主体を記載する欄に、「屋久島町」と書いていたことが判明したのだ。

山海留学の補助金を国土交通省に申請する際に、屋久島町が作成した事業計画書の一部。事業実施主体の欄に「屋久島町」と書かれている

裁判で「町は実施主体ではない」と主張。それなのに補助金の申請書では、実施主体は「屋久島町」と記載。これでは、どちらが本当なのか判断できず、完全な二枚舌だった。さらには、裁判所か国交省のどちらかに対し、町が虚偽の説明をした疑いも出てきた。

【左】屋久島町山海留学への参加を募集するチラシ【右】屋久島町が国土交通省に提出した補助金の申請書

そこで、引き続き取材をしたところ、山海留学の実施主体について、国交省と町の認識が大きく食い違っていることがわかった。

国交省の離島振興課に電話で取材をすると、担当者は「山海留学は町の責任で実施する事業との認識で交付金の支給を決めた」と説明。事業の実施主体は、あくまでも「屋久島町」との認識を示した。

国土交通省=同省ウェブサイトより

ところが、町の見解は全く違っていた。教育委員会の塩川文博教育長に面会して話を聴くと、実施主体の欄に「屋久島町」と書いたのは、「国から補助金の交付を受け、里親らに交付する事業という意味で、制度の実施主体として責任をもつ意味ではない」というのだ。

屋久島町役場

国交省の認識を踏まえると、塩川教育長の説明は手前勝手な言い分で、裁判所での主張と、国交省への説明が、大きく矛盾することをごまかすための詭弁としか思えなかった。

しかし、そんな個人的な意見を記事にするわけにはいかない。私は私見をすべて排除して、山海留学の実施主体をめぐり、国と町の認識が食い違っている事実をだけを踏まえ、<「実施主体」に屋久島町 山海留学、補助金申請に記載>(2019年8月16日付 朝日新聞鹿児島版)と題する記事を書いた。

<屋久島町立の学校が島外の子どもを受け入れる山海留学制度で、一貫して留学制度の実施主体性を否定してきた町が、「事業実施主体」として同制度への補助金を申請していたことがわかった。所管する国土交通省は「留学は町の責任で実施する事業」との認識で補助金を交付したという。

町は朝日新聞の取材に対し「国から補助金の交付を受け、里親らに交付する事業という意味で、制度の実施主体として責任をもつ意味ではない」と説明。国と見解が食い違っている。

山海留学中に起きた問題について誰に責任があるのかという実施主体性を巡っては、里親から体罰を受けたり留学中の事故でけがをしたりしたとする児童らが、町と里親を相手取った損害賠償請求訴訟で主要な争点となった。町は実施主体ではないとして責任を否定し、全面的に争った。

このうち留学児童が里親から竹刀でたたかれるなど体罰を受けたとして争った訴訟では、裁判所が町と里親の責任を認め、今年7月に和解が成立している。

町によると、町は山海留学への補助金として、離島活性化交付金を2016年度から毎年申請。事業実施主体の欄に「屋久島町」と記載し、これまで約1千万円の交付を受け、里親委託料などに充てた。

国交省の離島振興課によると、この補助金制度は離島の定住促進を目的に、離島留学や特産品の輸送などを支援する制度。実施主体が地方自治体である場合、事業予算の5割以内で補助金を交付する。

事業実施主体として補助金を申請したことに対し、同町の塩川文博教育長は「補助金を受け、補助金を出すことについてのみ実施主体のつもりだった」と説明。補助金を交付した留学先でのトラブルについて「責任を負う立場にないとの認識だった」とした。(中略)

同省離島振興課は「山海留学は町の責任で実施する事業との認識で交付金の支給を決めた」と説明したうえ「客観的に見て、町が実施主体という判断は変わらない」として、交付金の返還を求めない方針だ。

一方、町教育総務課は「町は留学制度そのものの実施主体ではないが、補助金の申請は適正だった」としている>

記事を読めば明らかだが、私は国交省と町を取材して、両者の言い分を明確に示したうえで、山海留学の実施主体に対する双方の認識が食い違っているという事実を報じただけだ。「屋久島町が虚偽の記載をしていた」などと書いて、町を批判したわけでもなかった。

それにもかかわらず、この記事が掲載された数日後、屋久島町は朝日新聞社に苦情を申し入れてきた。それも取材した私に一切連絡することなく、いきなり鹿児島総局に電話をして、直接「総局を訪問したい」と伝えてきたのだ。

(7章 逆風のなかで⑤につづく)

本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。

【ご感想・メッセージ】
取材記『離島記者』に関するご感想やメッセージなどは、以下のフォームよりお寄せください。→ https://forms.gle/393iKVFjZ8X5Smzg8

『離島記者』配信記事一覧
https://yakushima-post.com/ritokisha-front

関連記事
これらの記事も読まれています
記事URLをコピーしました