5章 負の連鎖①『離島記者』

町役場を取材しなければ、のんびりと暮らせる屋久島だけれど、ひとたび取材すると、何もかもが怪しく思えてくる。
町長のシルバー割引を悪用した旅費着服に、副町長らの虚偽領収書。そして、国への虚偽報告で不正請求した補助金など、など。
島での来し方を振り返ると、町の嘘と不正に翻弄される取材が次々と続き、その度に「ここは本当に世界自然遺産の島なのだろうか?」と疑わずにはいられなくなる。
一方、私たちを批判する住民からは、こんな声が聞こえてくる。
「余計な取材をするから、町の不正や不祥事が表沙汰になるんだ」
「屋久島町の評判が悪くなるから、もうやめてほしい」
不正や不祥事が続く町役場よりも、それを取材する私たちの方が悪いということだ。しかし、そう思うのは自由だが、そんな批判を安易に受け入れ、相次ぐ町の不正に目をつぶることはできなかった。
そこで私は、鹿島さんら島民記者と話し合い、次なる取材テーマを荒木耕治町長が使っている交際費に定めた。「町長交際費」は町政に関わる政治家や行政関係者らとの親交を深めるなどの目的で、毎年100万円ほどの予算が計上されているが、贈答や接待でどのように使われているのか、ほとんど知られていなかったからだ。
そう決まると、定石の一手は、今回も町への情報公開請求となる。
法外な町長交際費
2022年3月、私たちは公文書開示請求書に<荒木町長の交際費に関係する関係文書一切。領収書や明細などすべての文書を含む>と記載。会計に関する公文書の保存期間として、町が定めた過去5年間にわたる支出記録の開示を求めた。

それから1カ月後、交付期限ぎりぎりで約650枚の公文書を受け取った。手数料は文書1枚につき10円なので、合計で約6500円。出張旅費不正精算事件の調査で、1万6000枚に支払った16万円に比べれば少ないが、手弁当で取材を続ける私たちにとっては、それでもきつい出費である。
さっそく公文書の束を広げると、2種類の記録文書があった。一つは、交際費支出の承認を得るための文書で、民間企業の稟議書にあたる<交際費使用伺い>。もう一つは、交際費を使う際に作成する<支出命令書>で、それぞれの命令書に請求書が添付されている。

まずは町長がどんな目的で、誰に対し交際費を使っているのかを調べるため、交際費使用伺いに一枚ずつ目を通すことにした。
すると、葬式の花代に支出した慶弔費を除くと、その他の大半は贈答に使われているようだった。
次に贈答した品物を見ると、焼酎やポンカン、タンカン、パッションフルーツなど、屋久島の名産品がずらりと続いた。また、それらに加えてイセエビやアサヒガニ、水イカといった魚介類も多い。さらには屋久杉万年筆・ボールペンセットや、特製の屋久杉箱に入れられた島限定販売の焼酎「愛子」など、高級な贈答品も見られた。

続いて贈答先を確認すると、国会議員の多さが目立った。具体的な氏名は黒塗りされて不明だが、大半は<衆議院議員><参議院議員>と書かれ、なかには<内閣総理大臣><内閣官房長官>といった政府の要職もいた。同じ政治家では、鹿児島県の<知事>もあり、すでに退任した<元知事>も含まれていた。さらには、民間会社の<代表取締役社長>にも頻繁に贈答していた。

気になる贈答額になると、タンカンなど1箱で数千円の果物や、1本2500円の焼酎など、単価はそれほど高くはなかった。だが、贈答1件あたりになると、焼酎をまとめて贈って数万円を支出したケースも多く、なかには10万円を超える贈答もあった。
たった1件の贈答で、1人に対して数万円から10万円の支出は、一般庶民の感覚では極めて高額である。それでも荒木町長が贈答したのには、それなりの理由があるはずだと思い、交際費使用伺いの用途欄を見てみた。だが、確認できたのは贈り先の肩書だけで、贈答の目的や理由は全く書かれていなかった。
さらに詳細に見ていくと、高額な贈答が国会議員に集中していることがわかった。また、特定の民間会社の社長に対しても、短期間に集中して高額な贈答が行われていた。
これは怪しいと、私は直感で思った。そして、特に問題だとみられる贈答をリストアップすると、少なくとも23件のケースが浮かび上がってきた。
まず初めの12件は、<衆議院議員>に対して集中的かつ継続的に贈られたもので、これだけで計約50万円にもなる。
➀ 2017年8月2日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」12本、合計 3万2360円
➁ 2018年4月12日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」24本、合計 6万4866円
➂ 2018年11月2日、衆議院議員■■■、イセエビ、合計 2万4181円
➃ 2019年5月23日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」36本、合計 9万7299円
➄2019年9月25日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」24本、合計 6万7407円
➅ 2020年9月23日、衆議院議員■■■、イセエビ・アサヒガニ・水イカ・屋久とろ、合計 2万9245円
➆ 2020年12月10日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」12本、合計 3万4350円
➇ 2021年2月19日、衆議院議員■■■、屋久とろ・魚すりみ・水イカ・塩トビウオ・サバ・チレダイ、合計 2万2181円
➈2021年3月23日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」24本、合計 6万8500円
➉ 2021年5月27日、衆議院議員■■■、焼酎「三岳原酒」3本・焼酎「三岳」3本、合計 1万3650円
⑪2021年9月22日、衆議院議員■■■、水イカ・屋久とろ・魚すりみ・チレダイ、合計 1万8711円
⑫2022年2月21日、衆議院議員■■■、水イカ・屋久とろ、合計 2万2516円

続く3件は<内閣総理大臣>や<内閣官房長官>への贈答で、なぜ町から政府の要職に贈る必要があるのか、全く理解できなかった。
⑬ 2019年6月14日、内閣官房長官■■■、焼酎「三岳」2本・焼酎「愛子」2本・焼酎「水ノ森」2本、合計 1万6806円
⑭ 2020年9月23日、内閣総理大臣■■■、焼酎「愛子」2本・焼酎「三岳」2本・焼酎「水ノ森」2本、合計 1万7232円
⑮2020年12月10日、内閣総理大臣■■■、焼酎「三岳原酒」12本、合計 3万4350円

最後の8件は、民間会社の社長への贈答で、その合計額は3年間で約38万円だった。
⑯ 2019年4月24日、セレモア代表取締役社長■■■■、焼酎「三岳原酒」12本、合計 3万2533円
⑰ 2019年5月23日、セレモア代表取締役社長■■■■、焼酎「三岳」2本・焼酎「愛子」2本・焼酎「水ノ森」2本、合計 1万6569円
⑱ 2019年5月24日、セレモア代表取締役社長■■■■、屋久杉万年筆・ボールペンセット、合計 10万8000円
⑲ 2019年6月11日、セレモア代表取締役社長■■■■、焼酎「三岳」12本・焼酎「三岳原酒」12本・焼酎「愛子」12本・焼酎「水ノ森」12本・焼酎「太古屋久の島」12本、合計 10万8630円
⑳ 2020年6月23日、セレモア代表取締役社長■■■■、イセエビ、合計 2万6373円
㉑ 2020年12月10日、セレモア代表取締役社長■■■■、焼酎「愛子」4本・焼酎「三岳」4本・焼酎「水ノ森」4本、合計 1万9014円
㉒2021年5月27日、セレモア代表取締役社長■■■■、焼酎「愛子」15本・焼酎「水ノ森」15本、合計 4万9690円
㉓ 2021年10月4日、セレモア代表取締役社長■■■■、屋久杉箱入り焼酎「愛子」1本、合計 2万4000円

まだまだ、他にも高額な贈答はあるが、居酒屋から注文があったのかと思うほど、やたらに焼酎の数が多い。イセエビやアサヒガニなどの高級な魚介類もあり、いったい荒木町長はどんな目的で国会議員や社長らに贈答したのだろうか。
(5章 負の連鎖②につづく)
※本文に登場する人物の肩書と年齢は当時のものです。
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